2月24日(火)
「病気になったら誰にも、面倒をみてもらえません」──。社会の高齢化で一人暮らしのお年寄りが増えている。年金保険に加入しておらず、政府から最低限の保障しか受けられない移民一世の数は少なくない。独居老人の場合、一般社会との接点を持たない人もおり、今後、深刻な社会問題を引き起こしそうだ。
サンパウロ市リベルダーデ区のあるペンソン。街路から五十段ほどの階段にそって、平屋が五、六軒連なる。二十日午前、その最上段の家屋で九十一歳になるという日系人男性が、洗濯物を干していた。
上半身用の下着につぎはぎだらけのズボン。室内をのぞくと、古びた家具類ばかりが目につく。
「自炊をしているから、何とか生活できています。それじゃ無かったら…」
年金受給額は最低給料の二倍にも満たない。家賃が月に二百レアルだから、残りはわずかばかりだ。
「今は、健康だから、大丈夫。でも体調を崩して、医療機関が必要になったら、とても治療費は支払えません」
ブラジル生まれ。だが、ブラジルで出生届けは出しておらず、国籍は日本だ。家庭の事情で一時帰国、旧制中学を卒業した後、再渡航したという。
契約移民として奥地のコーヒー園で約二年間過ごした後、サンパウロに出て都市労働者になった。「所得は低かったため、マイホームを持つことも叶わず縁談にも恵まれませんでした」。
実の妹が日本に住んでいるが連絡をとっておらず、消息は不明だ。
この男性を最高年齢に、日系人の独身男性五人が入居している。いずれも、年金生活者で健康に不安を抱えた人も。
隣接地で傘の修理業を営む主人が、お年寄りたちの健康に気を配っている。その主人も夕方にはヴィラ・カロン区内の自宅に帰ってしまう。
サンパウロ日伯援護協会(和井武一会長)はごく最近になって、このペンソンの存在を知った。
八巻和枝福祉部長は「日系の高齢者ばかりが、肩を寄せあって暮らしている場所がリベルダーデにあると分かって驚きました」。
先月中、援協に保護を求めて、独居老人計九人が駆け込んできた。例年一月は正月休みなどで相談件数が少ない時期だけに、異例な事態になっている。
病気や怪我で援協診療所を訪れ、医療費が払えないというケースがほとんどだ。中にはパラグアイから、バスでやってきた人も。
援協は傘下の施設やペンソンへの入所を仲介するなどして対応。入所費、医療費などの援助のため先月だけで七千~八千レアルを支出した。
うち二人が亡くなった。残り七人も収入が少ないため、継続して一人当たり平均、月に五百レアルを支援しなければならず、福祉部の予算を圧迫する形になっている。
毎日の相談件数(人)は平均、六十人前後。三〇~四〇%が老人問題だ。独居老人は社会との接点が少なく、実態が、なかなか統計上には現れてこない。
援協事務局は「(独居老人の保護)は例年にないペース。身寄りのない高齢者が増えているということ」と危機感を募らせている。