3月25日(木)
【ヴェージャ誌】ハーバード大学のステフェン・カニッツ教授は、歴代ブラジル政府が小零細企業を無視また虐待したことが、雇用の創出を困難にしていると講演会で批判した。大企業は最近、下請けへの委託加工で採用よりも解雇を優先し、人員削減に努めている。
次は同教授の講演要旨だ。この余剰人材を拾いあげるのが、中小企業の役目として世界的傾向となっている。雇用拡大のために小零細企業の強化が政府の役割だが、ブラジル政府は気が付かない。強化の反対に、小零細企業を虐待している。ここがブラジルの問題点だ。
小零細企業の経営者は、ブラジル人口の一〇%に相当する中流階級の人たち。一〇%の経営者各自が、十人ずつ労働者を雇用したら失業者がいなくなるはず。ブラジルに経営学を教える学校は、ゴマンとある。十人の労働者雇用は、特別難しいことではない。
困難なのは、ブラジルで小零細企業を経営すること。税法や商法など法令の大部分は大企業を対象に草案され、小零細企業に実行可能かは全く無視されているのが実情といえる。
グーグルのサイトで政府関係者や経済の専門家が検索するのは、金利とインフレ、為替ばかり。小零細企業の経営者には、あまり関係のないことだ。政府関係者や経済の専門家にとって、小零細企業の救済なんて歯牙にも掛けていない。
上流階級と大企業経営者は、雇用創出など全く忘れている。下層階級は、どのように雇用を生み出すか解らない。ささやかな資産家である中流階級に雇用創出のために骨を折って貰うなら願ってもないが、現実は自殺行為に等しい。
政府は過去二十年、増税に加え納税期限を百二十日から十五日に短縮した。今日、税率は歳入の四〇%に達する。さらに顧客から受け取る前に、納税しなければならない。税金の支払いで運転資金は消える。商品や原料の仕入れ資金は、政府へ取り上げられる。
アングラ経済への逃避と脱税が増加しているのではなく、最近多数の小零細企業潰しが行われているのだ。統計では二〇〇五年までに、三一%の小零細企業が倒産する見込み。これは雇用創出が起きないだけでなく、雇用されていた人まで失業することを意味する。
小零細企業の多くは過去三年、赤字経営か自転車操業の状態。九〇%は増資したくもできず、運転資金は枯渇。税金を滞納したり労働裁判所に訴えられるものなら、多くの債務を残して夜逃げするしかない。夜逃げをせずにボヤボヤするなら、残された従業員の退職金を払わされる。
小零細企業の経営者は、事業拡張など考え及ばない。情勢が好転したら、会社を売りたいと考えている。どうにか経営していられるのは、あの手この手で四十六種の税金を脱税しているからだ。延命のためには、いかに発覚しないよう脱税するか日夜考えている。
コンピューター脱税防止システムにより、脱税も難しくなった。税務署の裏をかいて完璧な脱税システムを考案し納税を免れるか、正直に全額払うしかない。完全脱税が発覚して刑務所へ行くか、完全納税で数年以内に破産するかだ。
昔は四社が破産すると、五社が誕生するといわれた。現存の小零細企業は二〇〇九年、六〇%が閉業するという。独立自尊の精神が、鼓舞された時代は終わった。中流階級の息子たちは、一国一城の主になるよりは薄給でも食いはずれのない公務員を選ぶようだ。
政府が事態の深刻化に気づき低金利政策を採り小零細企業の起業を奨励するころは、立志伝中の人物はもう出ないし労働者を雇用する技術者もいないだろう。