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記者の眼=密室政治=誰も知らない記念事業案

3月30日(火)

 今回承認された八案のうち、三案(2、7、8)は三月十五日までの第二次募集で提出されたプランで、理事会メンバーでさえも、その内容を知らない。知っているのは、事業案の評価に当たったプロジェクト委員会の六人だけ。今回の理事会まで、どんなプランが提出されているのか、という広報活動は一切なかった。プロジェクト委員会に全て任せた、といえば聞こえは良いが、実態としては「密室政治」というニュアンスが漂う。
 祭典協会事務局で確認したところ、八案の一つ『ジャパン・コンプレックス建設プロジェクト』は、驚くことにファクス一枚だけの〃企画書〃だ。
 提案者の「ブラジル日本移民百周年を考える会」事務局の石田光正氏に問い合わせたところ、まだ実在しない団体だという。「ブラジリアだとか、日系商社などの関係者がこのようなものを作ろうと動き始めており、時間がないので取りあえず」出した企画書で、「近日中にプロジェクトの推進理念、構造図、予算などの書類をご提出予定です」とのこと。
 つまり、提案者としての最低限の資格である、祭典協会の正会員団体という条件さえ満たしていないのに八案に残った。本来なら、祭典協会が事業案として受取ることさえ問題だ。
 企業関係者による唯一の企画だけに、その存在が重要なのは十分認めるとしても、予算や理念さえ説明されてない一枚の紙切れを、どのように〃採点〃したのか、というプロジェクト委員に対する疑問が残る。
 書かれている内容の大半は、建物に収容予定の「技術トレーニングセンター」などの項目の羅列。そのような一枚のファックスで、建築案三十七案中の上位八案に残るという採点方法は信頼性に足るものか。
 そして案の定、最高点を得たのは『日伯総合センター』案だ。上原祭典協会理事長が昨年九月に訪日した折、ブラジル側で何の広報も承諾もないままに「百周年案」として日本側関係諸団体に紹介し、日系社会でヒンシュクを買った、あのプランだ。
 JICA関係団体である、日系研究者協会内に設けられた同案検討委員会の委員長は上原氏自身。その他の同メンバーを見れば、渡部和夫文協改革委員長、大原毅同評議会会長、池田昭博同改革副委員長と、中心メンバーが完全に文協と重なっている。
 つまり、募集側と応募側が一致している〃談合〃的なプランといえそうだ。
 上原氏は提出後、さすがに委員長の座から降りたようだが、プロジェクト作成時の最高責任者で、文協会長で、祭典協会理事長という事実は変わらない。最初から、このプランが前提だったとすれば、他の公募案は〃当て馬〃的存在に過ぎなかったのか。
 しかも、総工費は「七千万ドル」(約二億三百万レアル=七十六億三千万円)もの巨額なものだという。もし日本側で半額を負担したとしても、残りの三千五百万ドル(三十八億円)をどうブラジル側で集めるのか?
 〃予定通り〃このプランが決議されたとして、コロニアの総意を得たはずのプランが、「フタを開けてみれば協力が集まらない」というのが最悪の筋書きだ。
 万が一そうなった時、「コロニアの協力がなかったからできなかった」という言い訳はきかない。事前に説明もないまま決めておいて何を今さら、だろう。
 文協は昨年十万レアルの赤字を計上し、「今年は赤字ゼロを目指す」という。十万レアルの資金作りに汲々としているのが現状なのに、桁が違い過ぎる。まして、祭典協会はその文協から資金を借りて運営している〃コバンザメ〃だ。
 「百周年」という打ち出の小槌を振れば、いくらでもお金が湧いてくるわけではあるまい。しかるべき段取りと、みなが納得する説明が必要だろう。事後承諾はいただけない。
 同案関係者によれば、同センターに入居すると言われる総領事館、国際交流基金、JICA、各県人会、県連、援協など日系団体が、部屋や階を前もって購入する形で資金を捻出するという。会館を売ってまで入居する県人会がどれだけあるか? ある日系団体代表者は言う。「タダで場所をくれて、引越し費用も負担してくれるなら考えてもいいけどね」。
 まして、コロニア四百五十団体と言われるうちの、六十団体しか加盟していない現在の祭典協会の決議が、〃コロニアの総意〃という御墨付きになるのか。しかも、今理事会には十余団体しか出席していない。
 四月三日の臨時総会では、八案について十分間ずつの説明時間が与えられ、その後、代表案一つを選ぶ投票に。その十分間だけで、コロニアへの説明は十分なのか? 各代表者はその場の自分だけの判断で決めて良いのか? 事前に、団体内で話合いたいところはないのか。
 いずれコロニア関係団体、企業、個人に協力を仰ぐのなら、しっかりした説明が必要だ。誰のための百周年か? コロニア全体の関心を、上手に盛り上げる運営が必要とされている。
    (深沢正雪記者)