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日本以外の外国に住むブラジル人の生活=インターナショナル・プレス紙から=(5)=人の流出、政治面からも=南北両半球、格差大きく

4月9日(金)

 ◆移住の政治的理由◆
 満場のマラカナン・スタジアム――。この人数は毎年、ブラジルを後にする労働者の数と一致する。ここ五年間で海外移住者数は三三%増加、現在、二百万人以上のブラジル人が海外で暮らしていると、ブラジル外務省は発表している。
 ただし、祖国を見捨てて海外に飛び立つ目的が、いつもお金とは限らない。サンパウロ総合大学(USP)の地方政治地理学のアンドレー・ロベルト・マルチン教授は、「ブラジル人の海外流出は世界情勢のプロセスの一つであり、経済上の理由のほかに政治面からも刺激を受けている」と分析する。
 同教授によると、世界の移住動向は、現在、南半球から北半球への人口移動で成り立っており、ラテン・アメリカ人は通常、北アメリカ、カナダへ、アフリカ人はヨーロッパへと流出。これらの進路は、二つの半球間の生活格差から引き起こされているとし、南北間の不平等は、グローバリゼーションを推し進める各国政府が、赤道から南に位置する国々の経済マヒを促した九〇年代に始まったという。
 「国際通貨基金(IMF)が南の国の成長を促進せずに終わり、この考えに基づいて生産行為を危うくする時、人々は二者択一を迫られる」。
 新しい政府秩序もまた、移住の目的の変化に深い関わりを持つ。十九世紀から二十世紀の情勢が安定していた時期、人々は生産可能な土地、空間を手に入れるため祖国を離れたが、現在の状況は全く異なり、仕事を探すためが大きな要因となっている。マルチン教授は、「今の都市システムが新たな消費市場を開く一方で、工場の機械化に伴い、労働者への扉を閉じている。南半球のように資本がないところは、当然の傾向として北半球への移住が考えられる」と解説する。
 ◆模範は中国◆
 海外に住む人もブラジル経済を助けている。二〇〇二年、海外在住のブラジル人は昨年比一〇%増の四十六億に及ぶ米ドルを母国に送った。アメリカ相互開発銀行機関(BID)によると、同額はブラジル国民総生産の一%に値するという。この総額で、十四億米ドルが海外のブラジル銀行二十七支所から送金され、前年比五七%も増えている。その多くは日本からのものだ。
 高等選挙裁判所(TSE)も海外のブラジル人コミュニティーの拡大を確認している。大使館や総領事館に登録されている有権者数は二〇〇〇年から〇二年にかけて六一%増加、現在、十六~七十九歳の約七万人が海外で選挙権を有している。二〇〇〇年は四万三千四百人だった。
 移住ブームの唯一の解決策は世界中の経済全景が変わることに尽きる。北半球の国々がやっているように、南半球の国々もインフラ投資をする必要がある。インフラ投資は金の動きが停滞しないようにするための大きな突破口となるからだ。巨大工事を議論する時、最初にくる理由は決まって、都市や経済の活性化、雇用の創生となっている。
 しかし、「赤道線以南の国では起こり得ないこと。IMFの言いなりになっている経済政策が債務利子の支払いを優先しているからだ。そのため、インフラに投資するような資金が残らない」と教授は嘆く。
 開発途上国のなかで、おそらく、中国だけが、成長を遂げた国だろう。同国の平均成長率、年間七%は、政府のインフラ政策への莫大な投資を可能にしている。今の中国は、各省が奨励している鉄道新設や水力発電、幹線道路の設置などインフラ大国と化しており、さらに輸出にも力を入れている。
 ブラジルでは七〇年代、日本の援助で同様の現象が起こるも、八〇年代にはデカセギなどで労働力が流出してしまった。マルチン教授は、中国を模範とし、大規模なインフラ投資を再開すべきだと訴えている。「フェルナンド・エンリッケ・カルドーゾ政権が行なった民営化後、国のエネルギー分野への投資がなくなった。鉄道新設もなく、ただ、有料道路の値段が上がっただけ。IMFが世界に向けて掲げている方針を打ち破れない間は、事態を変えることは難しい」としている。   (つづく)

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