4月28日(水)
【エスタード・デ・サンパウロ紙二十七日】世界貿易機関(WTO)は二十六日、米政府の綿生産者補助金制度に対するブラジル政府の訴えを全面的に認める決定を下した。米政府の綿生産者に対する補助金制度は、米産綿製品の輸出を有利に導き、製綿業者への支払いで便宜を図り、国際貿易を著しく歪めていた。ブラジルの綿生産者は、そのため四億八千万ドルの損害を被ったと政府は訴えていた。一方、米政府は大統領選挙前の出来事なので、決定見直し要求する構えだ。
今回の米国産綿に対するWTO決定は、全世界で横行している年間三千億ドルに上る農産物補助金にも影響を及ぼすと思われる。ブラジルのクロードアウド・ハゲネイWTO大使は、努力が報われたと感激の意を表した。
これまで米政府の横暴な補助金制度で、綿の国際価格は不当に下げられ、米国の意図的な商業戦略でブラジルの生産者は著しく顧客筋を荒らされてきた。米政府は反訴の意向を明示していないが、WTOそのものに揺さぶりを掛けると思われる。しかし、途上国の足並みはそろっていない。
ブラジル政府が指摘したのは、次の二点とされる。一、米政府の補助金政策は、綿の国際価格を一五%安と不当に低くした。そのため世界の綿生産者は、甚大な損害を被った。米政府が補助金制度を停止すれば、国際価格は一二%回復できるとみている。
二、補助金制度によってのみ輸出可能な米国の綿生産は、法外な価格により違法取引を挑発し、国際市場を歪めた。補助金制度は綿市場のみを害するものではなく、全ての農産物についても同様の問題を引き起こしている。
米政府は綿生産者に対する補助金の制限枠を無視し、ウルグアイ・ラウンドの決議事項に違反した。同ラウンドでWTO加盟国と合意した「平和解決案」は、米国の協定無視により空文化されたとして、ブラジル政府は抗議した。
二十六日のWTO決定は、国際貿易における農産物補助金制度を巡っての判例となった。輸出のみならず国内流通に適用している補助金制度も含む三年前のドーハ・ラウンド見直しに発展する可能性もある。補助金制度の最大の被害国は、ベニンやブルキナ・ファソ、マリ、チャドなどの諸国だと、アフリカ代表も窮状を訴えた。
アフリカ諸国では千五百万人の綿生産者が、米政府の綿補助金制度のために飢餓線上に追いやられている。国際復興開発銀行(IBRD)の統計によれば、アフリカ諸国の損害額は二億五千万ドルといわれる。
伯米両国へ手渡された決定は仮処分で、五月十日までに国際仲裁機関へ両国は出頭し、六月十八日までに最終決着をする。ハゲネイ大使はWTOが決定の大筋を変更することはないし、ブラジルの言い分は聞き入れられるものと確信すると述べた。たとえ仮処分でも、積年のブラジルの悲願は報われるという。思えばWTO史上でも稀な長く複雑な戦いだったと述懐した。