5月01日(土)
サンパウロ市内の高級住宅街にあるのに、一向に買い手のつかない屋敷がある。理由は「凶悪殺人事件があったから」。不動産業者によると、不動産を見に来た人が「殺人があった」「人が死んだ」という噂話を聞くと、ほとんどの場合購入をあきらめるという。逆に、「死者がたたるなんてまったくの迷信。価値の落ちた不動産を安く買うチャンス」と喜ぶ人がいるのも事実である。(エスタード・デ・サンパウロ紙四月四日)
二〇〇二年十月に起きたリヒトホーフェン夫妻殺人事件は、両親の葬儀で泣いていた娘が殺害を企て、実行犯が恋人とその兄だったことで、社会に大きな衝撃を与えた。事件現場となったブルックリン区ザカリーアス・デ・ゴイス通りにあるリヒトホーフェン氏の屋敷は、美しく緑に囲まれた立派な邸宅である。
だが塀には「キリストは『親を殺したのか』と泣いた」と落書きされ、警備員が見張りを交代で続けているだけで住民はいない。リヒトホーフェン家のマリア・A・フロジーニ弁護士によると、買い手も借り手もない状態だという。
これはリオで起きた事件だが、二〇〇三年十一月のアメリカ人のスタイリー夫妻殺人事件はブラジルでは珍しい密室殺人としてFBIも捜査に加わった。夫が石油会社『シェル』の重役だったので、シェル殺害事件とも呼ばれた。スタイリー氏の邸宅は、事件の捜査のため現在でも立入禁止となっている。警察が邸宅を解禁した後、事件前のように百五十万レアルの価値があるとは思えない。
一九八八年のクリスマスのボウシャブキ夫妻殺人事件が起きたクーバ通りの邸宅は、三年前にやっと買い手が見つかった。買い手は、同不動産の事件前の評価額より三〇%安い約百八十万レアルで購入。ちなみに隣りの少し大きい屋敷は三百二十万レアルで販売されている。
レオ・ブルネット広告代理店は以前、同邸宅を五年間にわたって借りたことがある。同代理店が雇った外国人クリエーション・ディレクターたちをそこに住まわせるためだ。
同社の企画・戦略副部長のマルレーネ・ブレグマン氏は、「あの家はとても美しいし、会社からも近い場所にあった。借り手が見つからないと不動産屋が悩んでいたけど、我々が求めていた条件にぴったりあてはまる邸宅だった。二家族が住んだけど、邸宅で起きた事件の話をしてもまったく気にしなかった。そんなことを気にするのはばかげているのよ」と言明している。
不動産業歴三十年のセルジオ・ヴィエイラ氏は、「そう考える人もいるけれど、考えない人もいる。いずれにしても、事件の有無で顧客が減るのは確か」と現実の厳しさを語る。
同業歴四十年のジョゼ・S・ファリーア氏も、「(事件について)隠した方がいい。不動産の価値が下がるからだ。アパートの場合は管理人や門番にもらさないよう知らせなければならない。大抵の場合、(事件を)知ったら買わないね」と同意する。
一九三〇年代に母親殺しのあった中心部アパ通りの邸宅は、城のような建築から〃カステリーニョ(小さな城)〃と呼ばれ、今でもお化け屋敷として有名だ。ここで寝泊りする勇気のあるのはセン・テット(屋根なし)のみ。
ある旅行代理店は、「サンパウロ・アレン・ドス・トゥームロス(墓場の向こうにあるサンパウロ)」という観光プログラムを実施している。サンパウロ市内の墓地や、リベルダーデ区のイグレージャ・ダ・サンタ・クルス・ドス・エンフォルカードス(首吊りの聖十字教会)などを巡るロテイロ(ルート)の中には、カステリーニョも含まれている。