NHKのドラマ「ハルとナツ」(〇五年放映予定)の副題は「届かなかった手紙」である。現実には、ほかに書かなかった、書けなかった手紙もある▼さきごろ、第六面で富山県在住者の、叔父の未亡人、従兄弟捜しを紹介した。このケースは、約六十五年全く没交渉だったが、老境に入った今、まだ会ったことがない二人の消息を知りたい、許してもらえるなら、元気なうちに(ブラジルを訪問し)会いたい、というものだった▼許してもらえるなら、には六十五年間も音信を絶っていたことへの詫びが込められているようだ▼捜し主は富山県福光町の加藤謙蔵さん。叔父加藤政次郎さんの未亡人という人は加藤正子さん(福島県人)、従兄弟はその一人息子の正人さん。政次郎さんは三五年頃親戚の家族構成で渡伯、正子さんと結婚し、正人さんをもうけたが、親戚一家が帰国したため、心細さから精神的な障害が生じた。ほかの人に連れられ帰国、その後十年ぐらいして死亡した▼正子さんと正人さんは残された。当時、幼子をかかえ、正子さんはどのように暮らしたのだろう。再婚の道などあったのだろうか。戸籍上では今も亡夫の郷里の町に「加藤正子」で生き続けている▼二人を捜している謙蔵さんは、叔父の帰国の頃、幼少で〃責任は全くなかった〃はずなのに、過去、手紙を書かなかったゆえに、責任を感じているようにみえる。生きていれば、正子さん八十七歳、正人さん六十六歳。ブラジルのどこにいるのだろう。(神)
04/05/07