5月11日(火)
「今、日本語の授業は結構やりにくいんですよ」
織田順子サンパウロ大学日本文化研究所所長は、少々頭を痛めている様子だ。
哲学・文学・人文学部に入学した学生は一年間、まず一般教養を学ぶ。二年目に本人の希望とレベルで専攻を決定。日本語がカリキュラムに組み込まれてくる。
もちろん、授業は「あいうえお」のひらがなから開始。カタカナ、辞書の引き方などにつなげていく。文型に入るのは一カ月後のことだ。
「たとえ、日系人で日本語を話せるといっても、文法を理解、分析することは別問題。だから、講義を受けるのは意義があります」。織田所長はそう、強調する。
と言っても、日本語学校の卒業生と全くゼロから始める人とでは、スタートがずいぶん異なる。だから、最初の一カ月間、講義に出席する必要の無い学生も。
さらに、機構改編の一環で数年前から、ほかの学部生も受け入れなければならないことになり、学生間の意識格差が大きくなった。
「いろんな層が同じクラスにいるのだから、教える側は、どこに照準を合わせていいか分からず混乱気味です」
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日文研首脳部の理想はこうだ。日本語一年(学部二年)で初級~中級の日本語能力を習得。二年目(学部三年)に文学入門・文学史や論文の読解が加わり、最後の一年(学部四年)で文学作品の分析にまでもっていく。
だが、現実は甘くない。初級レベルの日本語力は容易にマスター出来るものの、中級、上級へのステップアップはかなり難しいからだ。古典文学コースでは、最低でも現代語訳を何とか読ませたいのが教授陣の願いだという。
織田所長は「語学の習熟には、時間も手間もかかるもの。学生にどう、力をつけさせるかが大きな課題です」と認識する。
『INTRODUCAO GRAMATICA DA LINGUA JAPONESA』(日本語文法入門)では不十分だと、関係者の意見は一致。数年前から、共同執筆で中級用のテキストを作成している。
織田所長は「スタッフは皆、様々な仕事を抱えているので、進捗状況は今ひとつなんですが…」と苦笑するが、今年中にはメドをつけたい考えだ。
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四月初めのある木曜日。正午から午後二時まで、文学部の教室で日本語の公開講座が開かれていた。言語センターの主導で三月からスタートしたもの。英語やポルトガル語の講座は既にあり、日本語が新たに加わった。
日本語能力試験三、四級合格を目標に置き週二回、授業がある。学生だけでなく一般希望者も受講でき出席者の顔ぶれは多様だ。この日は、聴解問題を解いた後、形容詞や動詞のドリルをこなした。講師の米須メイリーさんは日本語学科のインストラクター(モニトール)でもある。
織田所長は「三、四級を合わせてやるというのは、乱暴な話なんですが、まだまだ、試験的な部分もあるので、反響を考えながら進めていきたい」と慎重な態度をみせる。軌道に乗れば、一、二級用のクラスも設ける考えも持っているようだ。つづく。 (古杉征己記者)