5月11日(火)
育ててくれたブラジルへの恩返し――。サッカー元日本代表のエースで、現在Jリーグヴィッセル神戸で活躍するカズこと三浦知良選手(三七)が、来季からブラジルサッカークラブのオーナーに就任、「日伯友好の架け橋」の一端を担うクラブ運営を目指す。二日に来伯した実父で契約の仲介を担う納谷宣雄さんが七日、明らかにしたもので、申し出があったサンパウロ州内の四クラブと条件検討。来月にも、正式にクラブ譲渡の契約を交わす見込みだ。十五歳で単身来伯し、名門サントスなど数多くのクラブで技を磨いたカズ。日本サッカー界の「開拓者」として時代を駆け抜けてきた男は、新たな挑戦の舞台に「第二の母国」ブラジルを選んだ。
一九六七年静岡市生まれのカズは、「ブラキチ」の納谷さんの影響を受け、幼いころからブラジルサッカーに傾倒。静岡学園中退後、十五歳でブラジルにサッカー留学し、八六年に名門サントスと初のプロ契約を交わした。以来、国内の様々なクラブで活躍し、日本人として初の得点も記録、「カズー」の名でブラジル国内のメディアにも高い評価を受けている。
日本代表のエースとして長年、活躍したカズは以前から「将来はブラジルでクラブのオーナーになりたい」と公言、自身のホームページでも将来の夢を「海外移住」とするなど、ブラジルへの熱い思いは青年時代と変わらない。
これまでにブラジル人選手や監督など二百人以上を日本に移籍させた実績がある納谷さんを通じ、サンパウロ州内の四クラブが今回、クラブ譲渡を申し出ている。サンジョゼ・ド・リオ・プレット市のアメリカやカズがかつて所属したキンゼ・デ・ジャウーなどで、納谷さんは実際に各クラブに足を運び、会長ら関係者と話し合いを持った。
クラブの経営状況を示すバランスシートや、経費の一覧など様々な資料を元に、理想のクラブを検証するという。納谷さんは「サンパウロからの地理的な距離や町の人口などを慎重に比較し、結論を出す」と話す。契約はカズのマネージメントを担当する「オフィスハットトリック」関係者が来月にも来伯し、正式に書類を交わすことになる。
日本のJリーグのように、スポンサー料や入場料で年間の経費を賄うことが出来ないブラジルサッカー界。クラブの健全運営をどうするかがカギと納谷さんは分析する。将来的には有名クラブに選手を供給し、その移籍料でクラブの運営を賄う「育てて売る」形式を目指すことになる。納谷さんは「ブラジルに育ててもらったというカズの思いは非常に強い。日本とブラジルをサッカーで結ぶきっかけになるはず」とその未来図を描く。
十五歳から七年半をブラジルで過ごしたカズ。スーパースターとなった今でも、第二の母国への思いは変わらない。「日本生まれのブラジル育ち」が選んだ新たな挑戦に注目が集まる。