5月12日(水)
【エポカ誌】オデブレシュト建設の米国子会社から非公式に派遣されたブラジル人技術者六人が、医療用具や医薬品を携え四十時間かけてイラク入りをした。技術者らは目前で毎日、砲弾が破裂する戦場のような所で、イラク復興事業に従事している。
イラクで受注した三千万ドルの火力発電所の建設と送電線の設置に従事するため、技術者は派遣された。毎日耳をつき裂くような砲弾の爆発音を聞き、外国人拉致の危機にさらされながら奮闘している。
バグダッドでは、あまり目立たない家を賃借した。一定の場所に閉じ込められ、ビッグ・ブラザー出演者のような不便な日々をブラジル人技術者は送っている。外出は制限され、余暇はテレビを見るだけ。停電は再々。ここでは、発電機で半日発電している。信号は全部故障、交通はカオス状態、回収されないゴミが、どこでも山となっている。
発電所の建設現場はテロリスト攻撃対象から外されていることで、ブラジル本社は技術者の派遣に踏み切った。現場の作業は現地企業の従業員が行い、ブラジル人技術者は工事の技術監督だけだ。技術者には二十四時間、四人のガードマンが護衛し、全員防弾チョッキと鉄かぶとを着用している。
食事はほとんどが羊肉料理。鶏肉料理は特別注文になる。イラク人炊事婦が、料理する。味付けが異なるので技術者らは下痢をして、再々トイレの前に行列ができる。炊事婦がクビにならないように、一同は彼女の味付けに我慢している。
シュラスコのための肉購入は、ものものしい。大勢の護衛兵に守られ装甲車に乗って、精肉店へ行く。インターネットで家族とやりとりするのが、最高の楽しみ。一般人や外国人が武装勢力に拉致されるごとに、ブラジルの留守家族に電話で無事を伝える。
オデブレシュト建設はイラクへ派遣されたブラジル人技術者の氏名を、本人の生命保護のため公表を禁じている。技術者は六十日ごとに、十五日間の自宅帰還で交替する。給料は、イラクでは狙われ易い米国人技術者の給料をベースにするので高給となる。会社は建設費の四分の一を、社員らの治安維持費に充てる。
米軍の車列が狙撃されて国道が渋滞し、ブラジル人たちの車も巻き込まれるときは生きた心地がしないという。神出鬼没の武装グループがいつ襲撃してくるか、どこへどう逃げたらよいか分からず、全く未経験なことばかりで戦々恐々。
商店には驚くほど、何でもある。ゼロ関税のため世界の一流品が小さな商店にも溢れ、世界の新車が満ちている。八〇年代に輸出されたブラジル製のパサッテが、津々浦々どこでも所狭しと走っている。
四月に米系多国籍企業の従業員五十人が武装グループに拉致されてから、外国人技術者の間に緊張が高まっている。ジーメンスやGEなどは、各社百人以上の従業員が常時就労している。オデブレシュト建設は逃げるに如かずと思ったら、直ちに避難するように社命が出ている。就労は本人の自由意志で、強制は全くない。