5月14日(金)
【エスタード・デ・サンパウロ紙十三日】米政府のリチャード・バウチャー報道官は十二日、ニューヨーク・タイムズ(NYT)のローター記者の査証を法務省が無効にしたことで、報道の自由への対処として国外退去は相応でないと声明を発表した。NYT紙はブラジル司法当局へ提訴する構えを表明し、在米ブラジル大使館へ厳しい調子の抗議書を提出した。ルーラ大統領は憤怒の意を表し「見せしめ」だと述べ、名誉棄損で賠償請求の意向を示した。
米政府報道官は、新聞の報道内容はブラジルの問題であって米政府の公式見解ではないとした。しかし、ブラジルが保障する寛容な報道の自由からみて、国外退去命令は不当だと述べた。一方、同記者の妻がブラジル国籍を有することで、夫の国外退去は連邦令に抵触するという問題もある。
世界各紙は、「酔いどれ大統領」の報道を気に止めていなかった。しかし、ローター記者の査証無効と国外退去命令には、一面でいっせいに批判的反響をみせた。フォーカスは「報復は職権の乱用」、仏紙リベラチオンは「ルーラはアル中か?」、BBCは「もっと寛大に」など。
NYT紙は同紙スポークスマンを通じ、ブラジルの弁護士から査証を無効とする法的根拠はないとする確認を得たと報告した。NYT本社は、同記者がプラナウト宮の怒りを買ったことで善後策に奔走した。
サルネイ上院議長やメルカダンテ上議を初め各党の上議代表が十三日、大統領を訪ね、NYT記者の査証無効の取り消しを懇願した。大統領は午前中、まだ怒り心頭に達していたが、午後は少し冷静になったようだ。上院議長は大統領の心情は察するが、法務省の措置は否定的効果を招き最善策とはいい難いと忠告した。
上議らはブラジル政府に対する国際的印象が損なわれるとして、司法判断による最善策を模索するよう要請した。上院外交委員会は十二日午前、同記者の査証無効を一旦承認した。ところがカブラル上議(PMDB)は午後、高等裁の人身保護適用令を提出した。人身保護令は、査証の無効が報道の自由に抵触し、本来の目的の誤用だとする内容であった。
大統領は朝のコーヒーの席で連立与党代表に、政府措置は悪意に満ちた無責任な報道に対する見せしめだと述べた。大統領との個人的な交友なく大統領の習慣に口を挟むのは心外という。「普通の人間のように煙草も吸う。酒も飲む。選挙では協力者とビールを飲み交わす」と公言した。NYT記者が「大統領の母が、なぜ息子を大酒飲みに育てたのか」というくだりが、大統領の逆鱗に触れたようだ。
「ルーリーニャ、平和と愛」のキャッチフレーズを掲げた大統領選のとき、ルーラ大統領とローター記者は会っている。大統領に就任後、記者会見を行ったときの、同記者の慣れなれしい態度が気に入らなかったようだ。同記者の通例であるブラジル批判記事は、プラナウト宮で好意をもって受け入れられなかった。