5月15日(土)
初級段階で読める副教材が欲しい――。
国際交流基金サンパウロ日本語センター(吉井弘所長)は、童話『シンデレラ』を初級学習者向けにやさしい日本語に置き換える作業を進めている。
原稿は四月に、出版社に回された。来週早々にも発刊、図書室に入る予定だ。反響をみながら、次の作品も考えていきたいそう。
これまで、図書寄贈などを通して日本から書籍をブラジルに持ち込むことはあっても、同センター自身が教材作成に乗り出すことはほとんど無かった。新しい試みとして、注目を浴びそうだ。
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各種研修会やセミナー。教師養成のため、基金は毎年、数々の事業を主催・後援している。受講者より「楽しく学べるような副教材が足りない」という要望がちょくちょく出ていた。
吉川一甲真由美専任講師主任は「初級レベルに合った読物が無いために、生徒が日本語学習をやめてしまうような深刻な話もあった」と明かす。
『シンデレラ』は誰でも知っているようなストーリーだということで題材に選んだ。ただ、ネイティブが読むものをそのまま使うのは不適当だとして、語彙を初級レベルに直した。
「ブラジルに合った教科書が必要だとよく聞きます。でも、本当は各教師がそれぞれの教室に合うように、テキストを適用させて使うことが問題なのではないでしょうか」
吉川主任は、教材開発よりむしろ指導方法の重要さを強調する。
「サンパウロでつくられたものは、ベレーンでは通用しないということになりませんか」
日本に質のよいテキストがいくつも存在しているのだから、それをブラジルで生かしていけばよいというのが持論だ。
教材作成となれば、それなりのスタッフをそろえた上、ある程度の時間をかけて研究しなければならない。遠藤麻紀非常勤講師も「そんなに簡単なことじゃないですよ」と慎重な態度を見せる。
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そんな中、昨年末に大学研究会日本語教育班が発足。日本語教師のための参考書づくりを検討し始めた。
ブラジルの日本語教師は「外国語としての日本語教育」を実施するためのトレーニングをほとんど受けていない、とかねてから指摘されてきた。この問題に対処しようというのが、同教育班での主な議論内容だ。
メンバーは吉川主任、遠藤非常勤講師のほか、三浦多佳史基金派遣客員講師、松原礼子サンパウロ大学日本文化研究所専任講師、武藤祥子モジグアス日本語学校校長の五人。「ブラジルで、最強のチーム」だと自負する。
三浦講師は「ブラジルは広いので、先生たちが一カ所に集まるのは難しい」と参考書づくりの意図を話す。
素案では、基礎知識と教授法入門の二部構成。音声、文字・表記、社会言語学、日本語の教え方、評価と試験など計十項目を含む予定だ。
具体的な内容はまだ、決まっていない。今年中には、メドをつける考えだ。つづく。 (古杉征己記者)