5月18日(火)
五十音字の暗記、国語教科書の暗唱、文型の練習…。三月初旬の午後、日伯のびる学園(サンパウロ市パライーゾ区)を訪れると、十~十五歳くらいの児童・生徒十数人がそれぞれの習熟度に合わせて、日本語を学習していた。
教師、助手合わせて四人が机を回って、個別に指導する。ある生徒にポルトガル語で語彙の説明をしていると、別のレベルの子が「先生、問題をやりました」。黒板をみれば、女子生徒が「あいうえお」を書いている。集中力の切れた男子は、外でコップ一杯の水を口に入れた。
こんな忙しい授業が月~金曜日まで毎日、昼食を挟んで数クラスある。「ゆっくりお茶を飲む暇もありません。でも慣れると楽しいですよ」。
授業中は日本語だけで通す一世の母、宗花子さん(七一、福岡県出身)と日伯両語でうまく子供の心理をつかむ娘の志村宗マルガレッチさん(四〇)が、二人三脚で学校を盛り上げて、今年が十八年目になる。
百人以上の生徒を抱え、私塾の中で、規模はトップクラスだ。「レベルがまちまちだから、一斉授業にすると不満が出る」。開校以来、一貫して複式授業にこだわってきた。きめ細やかなサービスが目玉だ。
サンパウロ大学ジャーナリズム科卒業のマルガレッチさんが各種教材を参考に、独自のテキストを作成。夏休みや冬休みなど長期休暇を利用して年々、改訂している。
宣伝は特にしていないが、口コミで評判は広がり、見学に訪れる人が後を絶たない。
◇
「複式は、日本語学校の宿命みたいなもの」
ブラジル日本語センター教材研究部(高橋都美子代表)所属の教師は口をそろえて、そう話す。
もともと、日系移住地では渡伯時期も年齢も異なる子供たちを相手にしたのだから、「寺子屋式」を採らざるを得なかった。
現代は、ブラジル学校やほかの習い事との時間的な兼ね合い、兄弟姉妹を同じ時間帯に送り込みたいという保護者の希望が背景にある。
一斉授業だと、教師が生徒一人につく時間は複式に比べて断然、多い。だから、効果も上がる。だが、日系児童の日本語離れは進行。一クラスに数人といったことになり兼ねない。経営母体がしっかりしていないのなら、「寺子屋式」が効率的だ。
サンパウロ市内には、百校近くの日本語学校がひしめく。熾烈な生存競争を緩和するため、地区によっては合併構想が持ち上がる。私塾経営者には「一国一城の主」という自負があるから、なかなか、うまく話が運ばないよう。
教材研究部には絵カード、漢字、音楽のグループがある。それぞれ、月に二度ほど集まって研究を続けている。「作品コンクールのように、決まって収入が入るわけではないので、地味な存在だ」。
授業の合間を縫って、出掛けてくる。ほとんどボランティアでの協力。「会員校の先生に、少しでも役に立てれば幸い」と使命感を持つ。
今後の取り組みについて、尋ねたらこう、言い切った。
「私たちの課題は、複式に最も効果がある教材をつくることです」
つづく。 (古杉征己記者)