5月25日(火)
日本では現在、大学卒業者が検定試験に合格して初めて、日本語教師として認められる。
移住地では、「日本語がしゃべれるから」、「教諭経験者だから」といった理由で、ちょくちょく教室を任された。
つまり〃お墨付き〃は持っていなかったということ。それは、待遇の悪さにもつながった。
ブラジルの法律も考慮に入れて、〃資格〃を問題にすれば、現在でも、多くの人が目を背けたくなるだろう。
丹羽義和ブラジル日本語センター事務局長は「非合法であっても、コロニアに無くてはならないものとして、存在を認められていた」と興奮気味に語る。
だが、無資格だという意識は、劣等感や自信の無さを惹起。国際協力機構(JICA)や国際交流基金への依存体質をつくった。 財政改革の一環で、政府機関の事業が見直されるようになると、つい浮き足立ってしまう。
「これまで十分に援助したのだから、独り立ちしてもよいでしょう」「いや、日本政府に振り回されてしまって…」なんて、感情論を引き起こしかねない。
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国際交流基金の日本語教育機関調査(九八年)によると、ブラジルの日本語学習者数は一万六千六百七十八人で世界第十位。
一位の韓国(九十四万八千百四人)、二位の中国(二十四万五千八百六十三人)には、遠く及ばない。だが、地球の反対側という地理的なハンディーがあるのだから、堂々たる実績といってよい。
丹羽事務局長は「もちろん、世界最大の日系社会が存在しているからです」と言い切る。
一世教師が、薄給に耐えながら地道に仕事をこなしてきたことの証し。「センターは、ベテランの先生たちに支えられてきました」(同事務局長)。
前記調査の〇三年度版が昨年実施され、現在集計中だ。担当者によると、ブラジルは九八年に比べて、学習者数が増加。日系人の生徒数も回復を見せたという。公式発表を待たないと具体的な数字は分からないが、現場の教師にとってはなによりの朗報だ。
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移住者がどんどん来た時代は、非合法であっても教師の生活を支えるだけの力をコロニアが持っていた。だが、もう後続は無く、世代交代などで、移民社会の求心力は薄れつつある。
一方で、日本語教育はブラジル社会にじわじわと浸透。教師の技術的な専門性と相当の学校設備が要求されることになった。その重圧に苦しんでいるのが、現状だ。
打開策として、教師養成に議論が収斂。待遇改善の一環として労働登録が啓蒙され、専門技術を証明するための〃資格〃が必要ということになる。
移民一世は、ブラジルの大学を卒業していないと言って、サジを投げてしまいがちだ。丹羽事務局長は「語学教師として登録するなら、法律的には問題ありません」と認識不足を諌める。
ただ、前提になるは、学校自体の合法化だ。経営側が、なかなかそれに踏み切れない。納税額が増大。出費を賄うために、授業料を上げざるを得なくなるからだ。
学習者の増加で、日本語教育界は新たな対応が迫られそうだ。規模の拡大、つまり日本語学校を統合、経済力を増すことが、突破口のひとつとして考えられている。 (古杉征己記者)