5月28日(金)
【神戸新聞十八日】裁判で退去強制処分の取り消しを求めていた龍野市在住のペルー人マリオ・アリオラ・ヒラルドさん(四四)一家五人が十七日、本国に帰国した。来日から十一年。地元住民の協力で日本の生活にもなじんでいたが、勤め先が倒産するなど家計がひっ迫。敗訴すれば強制収容される可能性もあり、苦渋の決断をした。マリオさんは「多くの人たちの支えがあっただけに残念。日本政府はもっと外国人に対して広い心をもってほしい」と話している。
マリオさんは一九九三年、妻ソニアさん(三五)と長女シュシャさん(十五)の三人で観光ビザで来日。兵庫県龍野市で働き、二人の娘が生まれた。九九年、大阪入国管理局神戸支局から超過滞在の連絡が雇用主にあり、同支局に在留特別許可を求めたが不許可に。一家全員に退去強制命令書が発布され、マリオさんは約二年間にわたって強制収容された。
マリオさんらは二〇〇〇年八月、処分取り消しを求め神戸地裁に提訴。同地裁は昨年十月、「法務大臣の裁量権の逸脱や乱用はない」として訴えを棄却。大阪高裁で控訴審が係争中だった。近く控訴を取り下げる。
二年前にはマリオさんの勤め先が倒産。住居として間借りしていた工場は競売にかけられ、今年四月に退去するなど、苦しい生活が続いていた。三月に中学を卒業したシュシャさんの進路問題もあった。
そんなとき、カナダに住むソニアさんの弟がシュシャさんを受け入れることになり、カナダの高校への進学が決定。敗訴すれば、マリオさんは再び強制収容される可能性もあり、悩んだ末、帰国を決めた。日本で生まれた二人の娘は日本語しか話せず、母国の生活に慣れさせる必要もあった。
弁護団長の吉井正明弁護士は「敗訴しても在留できる道はあった。しかし、シュシャさんの進学などを考えれば帰国は一家の苦渋の選択だった」と話している。