6月18日(金)
フェイジョン畑の草刈りをしながら見上げる空は、日本の空と少しも変わらなく見えた。弓場農場は日本よりも日本的なところだ。
練習はバレエの基本動作から始まった。小原明子さん(ユバ・バレエ団代表)が手を叩くのに合わせ、列の先頭が走りだす。手と足を広げ上半身を反らせながら中空に舞う。弓場バレエチームのヨサコイダンスの特徴は、やはりバレエの動きを随所に取り入れているところにある。
弓場では二歳から五歳までの間はバレエの練習が義務づけられており、そのためか、普段はバレエを踊らない男の子でも次第に動きが軽くなっていった。
弓場バレエチームは二十六人。年は十歳から四十七歳まで、平均年齢二十二歳の大家族チームだ。
前回用いた自作のソーラン節に比べると、今回の曲はアップテンポで少しロック調なものとなっている。
子ども達は「前回の日本的な曲の方がよかった」と言うが、「五分以内に演技を終える」という大会規定を満たすために、急遽日本のヨサコイ大会で使われた曲を使うことになった。「(手に入れた日本の曲は)どれも、今時のロック調の曲が多くて困ったけど、出来る限りソーラン節にこだわって選曲したわ」と小原さんは語る。
振り付けも、「海の男の勇ましさ、北海道の荒波、そして吹きつける風」といったソーラン節の世界をイメージしている。
練習を終え汗だくになっている弓場みえさん(16)は、「どっこいしょと腰を落とし綱を引く動きがかっこいい」と快活な笑顔で語る。
この日の夜、弓場農場のお風呂で肩までお湯に浸かった後、弓場常雄さん(アソシアソン・コムニダーデ弓場会長)と食堂で話をしているところに、小原さんがやってきた。
「バレエよりヨサコイの方が好きって子ども達が言ってたでしょ」と彼女は切り出した。
「それはね、子ども達が土と共に生きているからなの。バレエの繊細な動きより、自然の持つダイナミックな動きの方が子ども達は表現しやすいのよ。だから、子ども達は北海道に行ったこともなければ、北海道の荒波を見たこともないけど、その激しさ、力強さは表現できるはずよ」。
「四十一年の歴史を持つユバ・バレエ団は弓場勇の意志を継ぎ、あくまで土と共にあり、自然への感謝を失うことなくブラジル文化の一翼としてアリアンサの夢を追い続けている」と弓場の小冊子(矢崎正勝著)に書かれている。
このように、弓場のバレエは、土と共に生きる人達が、バレエという都市的なものを上手く自分たちのものとして消化し、四十年以上も続いていることから、『新しい文化の創造』と言うことができるだろう。
そうすると、弓場バレエチームのヨサコイは彼らの本領発揮の場になるかもしれない。
YOSAKOIソーランは、よさこい節やソーラン節という日本の要素に、西洋の要素をとりいれた踊りであるから、『日本人の特徴を生かした新しい文化の創造』(弓場勇)を追及する彼らの考えに合致するところがあるからだ。
「前回の日本的な曲の方がよかった」。
その後に別の子が付け加えた。
「でも、大会が終わるころにはこっちの方が好きになってるかも!」
今回の、より西洋の要素が濃くなったヨサコイを、彼らはどのように消化するだろうか。つづく。
(米倉達也記者)
(ブラジルYOSAKOIソーラン実行委員会電話番号11・287・4199)