6月22日(火)
唯一の笠戸丸移民がパラナ州名誉州民に――。一九〇八年の笠戸丸移民で唯一健在な同州ロンドリーナ市在住の中川トミさん(97)が十八日、パラナ州議会から名誉州民証を受章した。西森ルイス州議の提案により、同州議会が満場一致で可決していたもので、十八日の移民の日に合わせて、トミさんに手渡された。ロンドリーナ市内の会場には親族や友人を始め、三日に着任したばかりの萩生田浩次クリチーバ総領事や上野アントニオ元連議ら約四百人が出席。九十六年前のこの日、一歳八ヶ月でサントス港に降り立った日系社会の「生き証人」の晴れの日を祝った。
日系社会の原点の一人に敬意を示すだけでなく、パラナ州日系社会の求心力を高める存在にしたいと西森州議が今年、同議会に提案し「満場一致で」(同連議談)決議されていた。また、合わせて六月十八日を「パラナ州日系移民の日」と定めることも決まっていた。
会場となったロンドリーナ文化体育協会(ACEL)会館には、トミさんを祝福しようと同州各地から数多くの人が詰め掛け、予定していたテーブル席が足らないほどの賑わいを見せた。
西森州議や上野元連議、萩生田総領事らとともに壇上に上がったトミさんは、黒の洋装で上品な雰囲気を醸し出した。足が不自由なため車椅子には頼るものの、九七歳とは思えない元気な様子に来場者は「本当に元気だ」「うらやましい人生」などと賞賛の声を上げた。
冒頭、日伯両国歌が斉唱され、懐かしい母国の「君が代」が流れると、トミさんは感極まった様子で涙ぐみながら、口ずさんだ。
祝辞を述べた一人の萩生田総領事は、三日にクリチーバ市に着任したばかり。「歴史の一部で学んだことしかない笠戸丸移民に実際に会えるとは」と赴任早々の貴重な機会に感謝した上で「中川さんは、ブラジル移民の原点としてまさに象徴的な存在です」などと敬意を表した。
また、自らもトミさんの実子に当たる清美さんを妻に持つ鈴木勇パラナ日伯文化連合会副会長は九十六年前のこの日、笠戸丸に乗った七百八十一人がサントス港に上陸、言語や習慣の違いを乗り越え、現在の日系社会を築き上げた経緯を紹介。また、八人の子供と三十人の孫、三十人のひ孫、そしてさらに一人の夜叉孫を持つに至ったトミさんの血を受け継ぐ系譜に光が当てられると来場者は一様に、感嘆した様子だった。
この後、西森州議と高山ヒデカズ下議から名誉市民証が手渡され、「パラベンス・セニョーラ・トミ」と祝福の声が掛けられた。六人の子供と十八人の孫、十二人のひ孫に見守られながら、晴れの日を迎えたトミさんは「特別なことはなにもしていないですよ」と笑顔を見せながら、握手や祝福を求める来場者に応対していた。