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コラム 樹海

 よほど奨(すす)め方が上手だったのだろう。老人クラブ連合会の会員たちが「自分史」を書いた。それも一人ではない。十人を優に越す▼奨めた人、日系社会シニアボランティアの安達正子さん(JICA派遣)の喜び方も印象的である。「原稿を持って来たお年寄りたちが、なんともいえない善い顔をなさるんです」。書いた人たちは、涙が出るほど嬉しく、寝る前にいつも読むのである。安達さんは奨めただけでなく、書き原稿をパソコンで印字してあげた。なかなかできることではない▼安達さんは、介護の専門家で、老ク連に赴任してきた。そこまでなさるんですか、と感謝しなければなるまい▼この欄でも「自分史(を書くことの)の奨め」を書いた。ただ、奨めただけで、実際のところ、印字のほうまでは手が回らない。安達さんは自分史を書くことの意味を親身に説いて、その上、パソコンのキーをたたいたのである▼故人の山本勝造さん(NCC創立者、元ブラジル日本商工会議所役員)は、『ブラジルに○○年』というシリーズものを十冊近く書いた人だ。随想集だが、所感集・自分史でもあった。その一冊目で「自分の書いたものが活字になるのは本当に嬉しいことだ」と真情を吐露した。山本さんは社長さんだったので、印刷代の支出は無理がなかった▼一般では、書いたものの活字化、製本化はたいへんである。老人クラブという場において、書いた人たちの文章を活字にしてあげた安達さんの篤志はすばらしい。 (神)

04/06/25