7月1日(木)
NHKドラマ「ハルとナツ」の山下タケシ役に抜擢された熊本小次郎君(16、弓場農場在住)がカンピーナスでの約一ヵ月間の撮影を終えて、六月二十三日、弓場農場に帰ってきた。日本から来た同年代の男の子らとCDを作ったという。ベテラン村田雄浩さんの迫真の演技を実地で見て学ぶところが多かった。すっかり尊敬したようだ。
みんなから「コウジ」の愛称で親しまれる小次郎君には、弓場の大自然の中ですくすく育ったのだろう、誰とでもすぐに打ち解けられるような人なつこさがある。「夢は音楽家!」で弓場バレエも「クラシックよりかっこいいヨサコイが好き」だというコウジ君に撮影中の思い出を語ってもらうと、次から次へと話が飛び出した。
生まれて初めての撮影は「すごく楽しかった。みんなと友達になった」と興奮を隠しきれない様子。特に生活を共にした同年代の日本の男の子とは、バンドを組んで曲を披露するほどの仲。ケンカをしながら、撮影の合間に四人で作ったCDは大切な記念となっている。
撮影中、印象に残っているシーンが二つある。一つは移民直後で生活が苦しく、一家で涙する場面。村田雄浩さんらベテラン俳優陣の迫真の演技にコウジ君自身も「目薬をつけなくても涙が出てきた」。また、主人公兄弟との別れのシーンでは監督から突然台詞をもらった。大声で「任せてください!」の一言。「ほんのちょっとの台詞だけど悲しみをこめて大きな声で言うのは難しかった」と語る。
楽しいこと続きの一ヵ月だったようだが、弓場が懐かしくならなかったか、との問いに「弟やお母さんに会いたいなぁ、と思った。ちょっとだけね」と照れて見せた。
コウジ君の話には俳優・村田雄浩さんの名が頻繁に登場する。寝室で一緒にトランプをしたり、他の俳優の物真似を見せてくれたり「すごくおもしろい人。演技も上手い」とすっかり尊敬しているようだ。
撮影中の誕生会で村田さんから掛けられた一言が忘れられない。「間違えてもいいから勇気を持て」。演技だけでなくこの先の人生にも続いているアドバイスだと感じた。「これから自信をもっていきたい」と力強く語る。
この一ヵ月間の数多くの出会いはコウジ君にとってかけがえの無いものとなったに違いない。