7月1日(木)
タイには会員一万人になんなんとする「タイ国日本人会」という在留邦人の互助機関があり、前年創立九十周年を迎えました。日・タイ交流のさまざまな行事やスポーツ、文化活動など邦人へのサービス事業を行っています。日本人会文化部にはメナム句会とバンコク短歌会という分科部会があり、当地で俳句や短歌の趣味を持つ人はいずれかの会に所属して作句、作歌を楽しんでいます。両会とも例会は通常月一回、特定の師系はなく、各自作品を持ち寄って自由に談論しています。年に二~三回吟行なども行います。
メナム句会
熱帯タイ国に四季はありません。長く住めば多少の季節の移ろいは感じられるものの、句作に向いている土地ではありません。にもかかわらず文化部中、もっとも長い歴史を有する部会はメナム句会なのです。第二次大戦中、バンコクに駐屯していた日本軍の軍営内から発祥したといいます。かれこれ六十年の歴史です。東南アジアではよく日本軍の暴挙が対日感情悪化の原因と言われていますが、タイに駐屯していた軍隊はなかなか花も実もある部隊だったようで、司令官自身が俳句を嗜み軍営内では毎週のように句会が催されていたと聞いています。そして戦後まもなくタイに残留したシビリアンたちによってメナム句会は結成されました。筆者が来タイした四十年前にはこの小父さま方は健在で、活発な句会が催されていました。が時の流れと共に人々の趣味は多様化し、流動性の高い(駐在員が多い)当地の特殊事情を反映してメナム句会は現在かなり低迷しています。
バンコク短歌会
短歌会はメナム句会より大分後発して発足しました。一九七〇年頃、時の会員の熱望によって生まれました。しかし句会同様の理由から現在は会員の確保定着に苦労しています。
昨年十一月、日本歌人クラブ主催の「国際交流日・タイ短歌大会」という大イベントが行われました。微力ながらバンコク短歌会もこれに協力しました。この時一番感動的だったのは大学生を中心とした若いタイ人から日本語による短歌が七十余首も応募されたことです。現地人の日本や日本文化に対する強い関心に反して、タイに住む日本人が日本語文化の粋である俳句、短歌から目を背けているのは実に嘆かわしい現象だと思います。
なお、四月から打ち切られた海外放送「NHK俳壇」の復活を強く望みます。 (山本みどり)