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コラム 樹海

 「豆腐百珍」や「歌仙豆腐」などと豆腐の料理は多すぎるほどに多い。近ごろは中国・四川省名物の「麻婆豆腐」も大流行。和風では「肉豆腐」とかが美味で若い人々が好むらしい。牛肉に酒をたっぷり入れ出し汁で煮込んだものに豆腐を加え醤油で味付けしたものだが、牛の脂との微妙なところがいい。若い同僚らによると、これを肴にしての熱燗が堪えられないそうだ▼熟年派は今頃の寒い季節になると、「肉豆腐」もいいのだろうがどうしても「湯豆腐」に目が向く。あれは極めて簡単そうに見えるけれども、鍋に敷く昆布の吟味に始まってつけ汁の作り方も難しい。豆腐のうまさが決め手になるのだから―いい品質のものを選ぶ。ちょっと邪道と言われそうながら鱈の切り身を浮かせ葱のいいのを少し散らしての「ちり」もなかなかにいい▼厳しい寒気が押し寄せてくると日本人は鍋物を好む。寄せ鍋やすき焼きにも豆腐は欠かせない。コロニアでも焼き豆腐が店頭に並んだことがあるが、あれはすき焼きにはなくてはならないものなのに最近は見かけなくなったのは残念としか申しようがない。厚揚げや雁擬(がんもどき)が手に入らないのも寂しい。厚揚げをあん掛けにした熱々は寒中の美味なのに―真に真に無念▼先輩移民から耳にした話によると、植民地にも器用な人がいて豆腐を作ったそうだ。「そのうまかったこと―」と老婆は懐かしげに語り冬の荒野で昆布や鰹節なしの「湯豆腐」がコロノ暮らしの楽しみであったそうだが―。 (遯)

04/07/06