7月8日(木)
参加者がそれぞれの歌を順番に披講していく。朱の添削が入っている場合は、それについて主宰の富永美代さんから説明がある。助詞一つ言葉ひとつの置き換えで歌がくっきりしてくることに気づかされる。和やかな雰囲気の中で参加者同士の感想がやりとりされていく。
これが短歌結社「楓美(ふうび)」の歌会風景である。
教えを請われたことがきっかけとなって九二年に始めたこの会のほかに、日系コミュニティー月刊情報誌「モントリオール・ブレテン」歌壇の選者を務め、また、カナダ全国向け日本語紙「日加タイムス」で毎月、メンバーの作品を発表している。
社交的な人柄ともあいまって、当地では知る人ぞ知る歌人である。
富永さんは今年八十五歳。アララギ派の系統に連なる「明日香」(主宰・川合千鶴子氏)同人として歌を詠み始めて三十年近くになる。もともと書くことが好きで、エッセイ、短詩などの形式には親しんでいたことから、短歌の世界でも早々と頭角を現した。
短歌表現の織りなす綾に惹かれ学んでいるメンバーに対しては、「その人の持つ感性、個性を伸ばすようにしています」。
感性とは「一つのものを見たときに何か発見する」ことであり、「それを表現するためには語彙が必要」と勉強を促す。外国に長く住んでいる人は個性も人一倍強く、それが歌に反映するのは当然とし、その持ち味を尊重している。
日本における短歌との間にもおのずと違いがある。ここではいわゆる花鳥風月だけでなく生活詠が多く見られ、芯が一本通っているのが感じられる
富永さんを師と仰ぐ三十余人の歌をまとめた自選歌集「つぶら実」は、二〇〇〇年に1号、二〇〇四年に2号が発行され、作歌活動の一環として好評を得ている。
1号と2号では「技術的に変わって、流れ・響きが出てきた。『我』を昇華させてより歌らしい歌になっている」と、各人の成長を見守る目は温かい。
メンバーの経歴は多様で、遠くはソウル、ハイチ、米国ネバダ州、国内でもモントリオールをはじめ、バンクーバー、トロント、ナイアガラ、シャルルボワ(ケベック州)の各地から歌稿が寄せられる。
カナダへは八七年に娘さん一家と共に移住してきたが、ケベックをこよなく愛し、この地の雄大な自然を好んで詠む。
「歌を通して思いがけない交流が得られる。私自身が磨かれた」と謙虚な姿勢を崩さず、今日もペンを片手に歌想を練る富永さんである。
茫漠と雪野果てなき大陸に花のいのちの香を顕(た)たしめむ
(リポート・マレットあけみ)