7月28日(水)
「あなた達はデカセギじゃないよ。就職でしょう」。入社する日系人へそう第一声を送るのは、請負業のJFEウイング(神奈川県川崎市本社)取締役総務部長の保田博通さん(59、神奈川県出身)だ。二十六日に来聖し、あいさつ回りにいそしんでおり、三十日に帰国の途につく。
初めて来伯したのは一九九〇年、以来約十度目だ。リベルダーデ区ガルボン・ブエノ街に人事担当者(八尋陸夫=11・3209・1454)を置き、同社の子会社で日系人を専門に直接雇用するTSAの役員も務める。元々は営業畑だが、現在は日系人に熱弁を振るう人事責任者だ。
世の中に構内請負業や人材派遣会社は数多いが、大手メーカーが子会社を使って日系人を直接労働させることはごく少ない。しかも、元々は正社員として雇用していたが、高額の厚生年金を支払うことにデカセギ自身が反発し、現在のように、毎年契約を更新する契約社員にし、国民健康保険に全員入る現在のスタイルになったという。
男性は時給千三百円、女性は千円。けっして安くはないが高くもない。より高額な時給を払う派遣会社は多い。
「月給が違うといっても月五万も変るかどうかでしょ。デカセギとして一~二年で捨てられるのか、うちで日本人と同じように働いて安定を求めるか」と入社を迷う人に語りかける。
同社で働く日系人百十四人中、永住権を取得しているのは二十人以上。九年間を先頭に長い期間働く人が多いのが特徴だ。
「川崎市内に一戸建ての新築住宅を建設している二世社員もいます」。
元々の親会社だった日本国内第二位の製鉄メーカーだったNKKは、今年四月に川鉄と統合し、JFEとなった。それにともない社名もNKKウイングからJFEウイングへ変更。日系人を雇用する同ウイングの子会社TSAはそのままだ。
派遣されるのは、ウイングが持つ製造ラインで、少数ながら3K的な労働もあるが、機械オペレーター職が中心。日本人でも難しいクレーンオペレーターやフォークリフトの運転など様々な仕事がある。国家資格が必要な場合は、わざわざ勉強させて試験を受けさせている。
どうして、そこまでして日系人にこだわるのか。保田さんが持つ日本の将来像には、日本人若年人口の減少を日系人が補うという構図がしっかりとはめ込まれている。加えて、「今の日本人の若者は、仕事に対する姿勢を日系人に見習わなくてはと思う。日系人は、まるで終戦直後の頃の日本人のようだから」と保田さんは見ている。
同社で働く日系には、他の派遣会社で悲惨な目にあってきた人も多い。中には「六畳一間のアパートに六人を寝泊りさせるところもあった。うち三人が交代で夜勤をするとはいえ、ひどいでしょ。しかも、男女が一緒だったんですよ」と憤る。
ある弁当工場に派遣する会社に勤めていた日系人は、家族ごと三カ月に一回づつ別の弁当工場に転勤させられていたという。来日時の航空券を夫婦と赤ちゃんの三人で百万円も借金させられ、一人当たり引越し代として十万円、夫婦なら二十万円を給与から天引きされていた。「それじゃ、いつまでたっても借金はなくならないでしょ。話を聞いて、うちに引きとりましたよ」。
「できれば家族全員できなさい」と呼びかける。「今、景気は悪くない」とも。日系人全員の査証の保証人に、保田さん自らがなっている。「もし、彼らになんかあれば僕は破産ですよ」。裏返せば、それだけの信頼を寄せているのだろう。