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唄でつづるカンゲイコ=柔道(2)=塩沢良平氏に学ぶ=穏やか控えめな静かさ(2)

8月11日(水)

  七月十日、(ポッソスで)一学期の修了式を行い、集まった百人の生徒らに、お母さんたちがつくったカショーロケンチを食べさせた。
 プリシーラ君(18)は「ボア・ヴィアジェン、センセ」と言って私に抱きつき、また泣いて「これをイタルに渡して」と自分でつくったドーセを持って来た。プリシーラは、バストスのイタルが好きでたまらず、それで泣いていたのである。イタルは十二歳で、サンパウロ州のカンピオンであるが、凄いデブであり、あまりバグンサするので、いつも馬掛場先生に叩かれているのだ。
 ポッソスを朝四時に出て、夕方六時にバストスに着く。直線なら八時間で着くけれども、チエテ駅まで来て乗り換えるので、倍近くかかるのである。
 道場にはすでにたくさんの生徒が集まっている。今年は百五十レアルのタッシャを徴収しているので、参加者はそう多くはない、と思っていたが、夕食後のミーティングで百十人とバストスの生徒二十人、合計百三十人を見て、さすがはバストス(道場)だと感心した。また、一レアルを払うのもたいへんな私の(ポッソスの)生徒たちのことを考えると、何か複雑な気持ちにもなった。
 サンパウロ州内からは、リベイロン・プレト、バウルー、バストス、カンピーナス、サントス、アラサツーバ、モジ・ダス・クルーゼス、トゥパン、オズワルド・クルスなど、他州からはゴイアニア、ブラジリア、コルンバー、カンポ・グランデ、ロンドリーナ、クリチーバ、ジャクチンガ、ベロオリゾンテ、リオデジャネイロなどである。
 十五人のゴイアニア・チームを率いて来た人物こそ、石井千秋先生をして「ブラジル柔道界ピカ一の選手」といわせた塩沢良平九段であった。初めの日に紹介されてから、木曜日に帰るまで、私は彼のそばを離れなかった。一九六四年、東京オリンピックで彼の試合を見て、それから四十年して初対面したのである。
 話すごとに、私はその穏やかさ、控えめの静かさ、優しい態度に魅了された。そして、ひとたび柔道着を着て組み合えば、闘志と負けじ魂が燃えているのがわかる。
 馬掛場さんも同様に感じたとみえ「あの人は天才なんだね―」と感嘆するのである。深い経験と研究に基づく話を聴くことができたのは、私にとって大きな勉強であり収穫であった。(つづく)