8月13日(金)
生徒たちは、元気になってきた。カロリーネ(12)とカミーラ(13)は「初めのうちは、練習がイヤでイヤでたまらなかったけれど、今は何のためにカンゲイコするのか分かってきて、友達もできて嬉しい。来年も必ずバストスに来たい」というようなことを帳面に書いてくれた。
全部の生徒がそういう気持ちになっているように感じられ、私は馬掛場さんに「今年はとてもいいカンゲイコになりそうだね」と話すと、彼も、同感だ、と語った。夜明けのバストスの街を黙々と走る姿は、皆力強く、逞しかった。
木曜日、塩沢先生はゴイアニアに帰られ、午後は恒例の〃世界大会〃である。それぞれのチームをつくり、日本、ブラジル、アルゼンチン、イラクとか、もう存在しないソ連を名乗るチームもある。
私はその日は疲れ切って、声も出ないので、イスに座って興奮した選手たちの激闘を見ていた。そこに油断が生じたのか…、団体戦は選手の年齢、体重が少しくらい違っても試合させるので、危険をともなうもの……、突然「バキー」、そして「ギャー」という絶叫。試合場に飛び込むと、倒れている十五歳のバウルーの少年の腓骨が骨折していた。
数人で慎重にかつぎ上げ、救急車を待っていると、「センセー、また二人やった。早く来ておくれー」と叫ぶ声。飛んで下に降りてゆくと、一人は肩、一人は肘をおさえて動かない。これまた救急車に乗せて、呻っている三人とともに、サンタカーザに向かった。
二時間ほどして、それぞれが適切な処置を受けたので、彼らを病院に残して道場に戻った。みんな心配しているだろうから、早く安心させたいと思ったのである。
けれども、生徒たちは、その夜はミーティングがないので、外に出たくてウキウキしている。誰も骨折した仲間のことを心配していない。皆、仲良くなったのはいいが、仲良くなり過ぎて、早々にナモーラを活発に始めているカップルもある。このまま外に出すのは心配だから、ミーティングを少ししようと言うと、どうして急にミーティングをするのか、と不服そうに聞く者もいる。思わず叩いてしまった。
「そうか、これだけ練習しても、これだけ話しても分からないのか。仲間の心配もせず、女の子たちは(全部ではないが)派手に着飾って、バストスにフェリアスを楽しみに来たのか」―そう考えたら私の心の中で、何かが「ガクッ」となった。失望感でいっぱいになり、あすの朝、早く帰ろう、と決めてしまった。(つづく)