8月28日(土)
日本の伝統芸能「能楽」に使われる仮面の展覧会が九月二日から、サンパウロ市の国際交流基金日本文化センターで始まる。おかめ、ひょっとこといったユーモラスなものや、嫉妬を表現する般若の面など四十点が並ぶ。制作者の久保田敏勝さん=北海道函館市=は一九五五年から七〇年までブラジルで生活。日本語教師をしていた経験もある。〃第二の故郷〃での個展はこれが二回目。「能面は無表情ではなく、表情というものを超えてしまっている顔」と久保田さんはその魅力を語る。
平家にその人ありと言われた「景清」、蚊や蝉など小さな生物を人格化した「空吹」、能面には珍しい笑みを含んだ顔の「延命冠者」、若い女を意味する「小面」……。
日本最古の芸能のひとつ、能役者が付ける仮面の種類は実に多様で、雄弁だ。久保田さんはそんな能面について、「舞台上でこそ真の力を発揮する。見る角度により絶妙な表現をする不思議な造形だ。高度な精神性が秘められ、世界でも類を見ない仮面の最高峰」と言い切る。
三八年、樺太生まれ。移住後は、日本語教師などをしながらサンパウロ市内で十五年間暮らしたが、身内が交通事故で大怪我を負い、治療のため一家で引き上げた。函館に落ち着き、ブラジル料理店「リオ・ブランコ」を開業。傍ら、八五年から地元の吉田松航さんより「能面打ち」の手ほどきを受け、九七年、「松仙」の号で師範の資格を得た。現在は北海道新聞文化センター講師としても活躍。幅広い層に「幽玄の世界」を伝えたいと、その打ち方を指導している。
八九年、まだ師範になる前に、サンパウロ市の文協で展覧会を開催した過去がある。「未熟者」と自己紹介しながら、二十点を陳列。今展には倍の四十点を展示する。「日本文化の華、能楽が芸能として大成するために最も必要とした能面の絶妙な造形」(久保田さん)を鑑賞できる稀有な機会となりそうだ。
久保田さんはきょうサンパウロ市に到着。オープニングは一日午後七時から。能面に関する映画の上映と、講演(ダルシィ・クサノさん)がある。一般公開は二、三、六、九、十日の正午~午後七時。入場無料。
国際交流基金、ニッケイ新聞社の主催。