9月4日(土)
太極拳を無料で教えて、三十五年──。台湾系一世のモー・ションギ・ウーさん(72)=ブラジリア=は幼いころから、柔道、剣道、合気道など数々の格闘技をこなしてきた。三十代の半ばに武術を健康増進に生かしたいと、ブラジリアの衛星都市タグアチンガで、希望者に太極拳のてほどきを始めた。地域の住民の目に留まって、入門者が続出。これまでの弟子の数は、数千人以上に上るという。
台湾南西部の嘉義。北回帰線上に位置するこの町で、ウーさんは一九三二年に生まれた。漢方医の家系だった。祖父は武術の大家で、父や兄も格闘技に傾倒。ウーさんも影響を受けて育った。祖国は当時、日本の統治下。松賀睦雄と名乗った。
「日本人として育ち、そして戦後に台湾人になった。まあ、宿命です」と流暢な日本語で語る。米アラバマ州の州立大学医学部を卒業後、一九六一年にブラジルに移住した。日本語新聞の営業に携わったこともある。
「格闘技にのめり込む余り、健康を害したり学問をおろそかにすることがあってはなりません」
二十七歳まで武術の試合に出場していたウーさんだったが、おじの一言がきっかけで、選手生活にピリオドを打った。
サンパウロに六年、イパチンガに二年居住後、ブラジリアに移転。邦字紙記事の中国語への翻訳などで、収入を得ていた。仕事のストレスから、体重が落ちた。
そんな中で、太極拳の指導が始まった。最初は、健康のため一人で体を動かしていた。地域住民の好奇心をそそり、門戸をたたく人が現われた始めた。
「全人類の平和と健康に貢献したい」。そんな願いから、授業料はとっていない。生徒数が増加したため、七〇年代の初めに道場を連邦直轄区内のブラジル中国文化協会に移した。毎朝六時から一時間、型などを伝授している。希望者には護身術も教える。
メディアの注目を集めたことで、入門希望者が増加。常に四十~五十人が、練習に励んでいるという。「腕試しをしたいといって、若い人が集まってくるようになりました」。
弟子の数は、正確に派把握すること出来ないくらい多い。「他人との戦いという面よりも、精神修養に役立ててほしい」と願っている。ウイリアム・ウーサンパウロ市議は、甥に当たる。