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人生の幕引の前に=日本政府に向け真情を吐露した米国在住老人=(6)=藁葺きの農家、今はなく=亡き両親をしのぶ

9月4日(土)

 朝早く、鳥達の賑やかなさえずりで目を覚ました。
 珍しく、金田氏はまだ床の中に居たが「目が覚めましたか」と声を掛けて、起きあがって、窓のカーテンを開けた。
 「朝食は遅くに頼みましたので、今から散歩でもしますか」と話して着替え始めた。
 旅館の横から、わき道に入り、暫らく歩くと、横を小川の流れる道に出た。あたりは、静かな住宅街で、畑がまばらに有るのんびりしたところで在った。
 「私の両親が良く話していたような場所です。小川があり、萱葺きの農家があれば、子供の頃の話しとそっくりです」金田氏は思い出深く眺めていた。
 私は、ポケット.カメラを出して、一枚、金田氏を写して、記念にした。
 その日の朝食は、よく歩いたせいか、お代わりして、沢山食べたので、二人して、空になったご飯入れを見て笑ってしまった。食後に、一休みして荷作りをしてしまい、新幹線の時間を確認した。
 東京駅から、成田エキスプレスに乗り換えて、成田に着いたのは、出発の二時間前で、直ぐに搭乗手続を済ませ、お土産の買い物をした。
 若い学生達が、修学旅行で出かけるところか、お揃いの制服で、賑やかにはしゃいでいた。金田氏は、「うらやましいですね―」と驚いていた。そして、「時代が変わり、私が歳を取ったということですか」と話すと、学生達をずっと眺めていた。
 日航の002は、予定どうり飛び立ち、帰りの飛行は緊張もせず、金田氏と話をして、過ごしていたが、ひと眠りして、アメリカに着く二時間前頃、金田氏は改まって、「今回は私の思い出になる、最後の日本訪問でした。おかげで全て予定どうりに済み、思い残す事は在りません。帰りましたら、貴方が私から借りている土地も、売買の契約をして置きましょう。リースの契約も切れますのでーー、それに近頃よく妻が、迎えに来る夢を見ます。そして両親とも夢で会います。私も旅立ちの用意をして置きたいと考える様になりました。
 子供がいませんので、元気のよい時に済ませておきたいと考えています。是非貴方に、私ら夫婦の散骨をお願したいと考えていますが、引き受けてくださらないでしょうか。遺言にも書いておきたいと思っています。宜しくお願致します」。
 私は何も言えず、無言で、金田氏の手を堅くにぎり締めた。予定どおり到着して、ワイフの迎えの車で、金田氏のアパートに着いたのは、一時間も掛からなかった。金田氏は荷物のトランクを開けると、奥さんが好きだったお菓子を仏壇に上げ、線香をつけて両手を合わした。
 ワイフは今夜の食事ですと、持参した弁当を置いて帰り道についた。(つづく)