イピランガに聳える独立記念塔は雄大であり彫刻の精巧さでも素晴らしく恐らくはブラジルでも随一の銅像と言ってもいい。百三十二の騎馬像などを組み合わせた銅像の中央には馬上のドン・ペドロ一世が剣を高々を掲げ「独立か死か」と叫んでいるのは申すまでもない。イタリアの彫刻家エトーレ・シメネスのものであり独立一〇〇年祭を記念してつくられたものである▼言うまでもなくドン・ペドロ一世は独立宣言をしたブラジルの英雄なのは間違いない。だが―チラデンテスらによる「ミナスの陰謀」に始まりリオ、バイーアやペルナンブコなどでポルトガルからの独立を目指す動きは活発だったし、独立への願いはブラジル知識人たちの共通した認識でもあったのを忘れてはなるまい。彼らに影響を与えたのがフランス革命でありアメリカ独立の思想であったことも―▼ドン・ペドロ一世が英雄視されるのは、それはそれで結構ながら―大変な専制君主であり、女性が好きであったし民主的な皇帝とはほど遠い。レオポルジーナ皇后との間に七人の子供があるのにサントス侯爵夫人という愛人には五人、フランス人女性のノミエ・チェリにも五人などと子沢山だし、ポルトガル王位を巡る弟ミゲルとの熾烈な闘争と波乱に満ちた生涯を送っている▼「独立か死か」の叫びは真実なのであろうが、「独立の英雄」は後世の人々がつくりあげた虚像のような―そんな気もする。きょう九月七日は「ブラジル独立記念日」であのイピランガの丘を舞台に記念式典が繰り広げられる。 (遯)
04/09/07