9月18日(土)
【ブラジリア発=下薗昌記記者】「いやーっ、金メダル以上の価値があるね」――小泉首相は十六日、宿泊先のホテルでアテネ五輪男子マラソン銅メダリストのヴァンデルレイ・デ・リマ選手の表敬訪問を受けた。レース途中まで首位にいながら、観衆の妨害を受けたこともあり無念の三位に終わった同選手。しかし、恨みつらみを一言も口にせずブラジル人ならではの明るさを見せた同選手の姿勢に強く感銘を受けていた小泉首相は十五日に行われた文協大講堂の挨拶でも、ヴァンデルレイ選手を称えていた。三日間のブラジル滞在中、一番の笑顔を見せた小泉首相は、約二十分間に渡り、ブラジルの新しい「英雄」との会話を楽しんだ。
同日午前十時過ぎ、レース中の姿とは一転、紺色のスーツに身をまとい、銅メダルを手にしたヴァンデルレイ選手が待つVIP室に入室した小泉首相は開口一番「いやーっ」と発しながら、早足で駆け寄りガッチリ握手。過密日程の疲れも見せずに、満面の笑顔を見せながら、世界的なスターとなった同選手を賞賛した。ヴァンデルレイ選手から銅メダルを受け取り、見入っていた首相は「素晴らしい活躍でしたね、ずっとテレビの中継を見ていました。金メダルよりも価値がありますね」と褒め称えた。
これまで八度の訪日回数があり、一九九六年の東京国際マラソンでの優勝を始め、東京や福岡、大分など数々の大会で好成績を収めたヴァンデルレイ選手。自己最高記録も九八年の東京国際(準優勝)マラソンだけに、日本は幸運の地。「日本はマラソン選手に高い敬意を見せてくれます。私は日本でキャリアを積み上げたのです」と親日家であることをアピール。
またレース中、妨害を受けた時の心境についても「最後の一秒まで頑張りぬく姿勢は、実は日本の選手の影響を受けているのです」と胸のうちを明かした。
世界中を魅了したゴール直前に見せた「飛行機パフォーマンス」や「両手でつくったハートマーク」についてもヴァンデルレイ選手は「その色に関わらず、メダルを獲得することが私にとって重要だったので、悔しさはなかった。ゴールの瞬間にあの事件のことは頭から消えていました」とキッパリ。小泉首相は「そういう気持ちが日本と世界の人々に爽やかで大きな感動を与えました」とそのスポーツマン精神を改めて称えた。
表敬訪問に先立つ十五日夜、ホテルでの夕食時にニッケイ新聞記者の単独取材に応じたヴァンデルレイ選手は「今回、小泉首相に会える機会を作っていただいたのは非常に嬉しい。日本の人々はいつも私を後押ししてくれるので感謝しています」と語った。また、現在世界各国のマラソン大会に招待を受ける同選手だが、「来年の初旬に東京でのレースに出る可能性があるので楽しみにしています」と訪日の可能性を打ち明けた。