9月28日(火)
「あの形のままのうどん・蕎麦では非日系人には浸透しない」と話すのは、森教授だ。〃あの形〃とは、丼につゆと麺と具が入ったものを箸を使って食べる、日本で一般的な形のこと。
ブラジル人に受け入れられるうどん・蕎麦の形を考えるには、すでにブラジル人の間に広まっている麺類が、どのようにブラジル化されているのか、を知ることがヒントになるのでは、と森教授は指摘する。
一九五八年に安藤百福が発案し、一九六五年からブラジルで販売されはじめた即席麺は、今や日系、非日系の枠を超えてブラジル人に浸透している麺類といえる。
「即席麺がブラジルで広まったのは、メーカーが広めようとしたからです」。日清味の素アリメントス(有)の三好寛行マーケティング統括部長はズバリと言い切る。
うどん・蕎麦の普及に巨額の費用と労力を投資してくれるメーカーが今後現われるかどうかは分からないが、即席麺を広めてきた過程にヒントが隠れているかもしれない。
まず、地道な普及活動の継続は欠かすことができない。
即席麺の販売を始めた当初は売っても売っても返品の山だったという。まず「ラーメンって何なのか」を消費者に知ってもらうため、ひたすら試食の機会を設けた。小売店の前でラーメンを実際に調理し、「簡単でおいしい」という即席麺の特性をわかってもらうように努めたという。
「ブラジル人がブラジル人の意見で作る即席麺」を徹底して追求する同社では、消費者調査や客相談センター(SAC)などから消費者が食べたがっている味を模索する。「ブラジル人から上がってくる情報にいかに商品を近付けるか」が鍵だ。
日本では塩、味噌、醤油といった味付けが基本だが、「ブラジル人が食べておいしい」即席麺を作るために基本の味付けをガリンニャ(トリだし)とカルネ(牛肉)にし、ブラジル人が日常的に食べている味付けに近付けたのだ。
そのほか地鶏、ベーコン、シュラスコ、フェイジョンだし、チーズなど十三種類のバリエーションがある。
さらに二〇〇一年に販売されたCREMOSOタイプは、もはやラーメンというよりはスパゲティに近い。
水の分量を守らず、ぐつぐつ煮過ぎてしまうブラジル人の調理法を考慮して、従来より一五〇ミリリットル少ない水で麺をゆでるようにした。「ブラジル人はラーメンをマカロンの一種と認識しています。いつも食べているマカロンとは違うが、これもイケるぞと思わせるんです」。
またパッケージのイメージ映像は、丼ではなく浅めの皿に盛りつけ、フォークに麺を巻きつけてある。これも消費者調査をもとにアイディアを出し合ったものだ。
「ブラジルの即席麺は日本ではそんなに売れないだろう」と三好さんは話す。ブラジル化された即席麺は日本の製品とは異なる味、調理法に変わった。うどん・蕎麦も〃和風マカロン〃として、日本では想像もできない形に変わっていくのだろう。 つづく
(大国美加記者)