10月14日(木)
日本社会に上手に適応してほしいという一世の期待とは裏腹に、学校で落ちこぼれて非行に走るデカセギ子弟はあとを絶たない。遠く地球の反対側から、彼らの現状を愁(うれ)う移住者は多い。
そんな中、教育特区申請が全国に先駆けて今年三月に認められるなど、デカセギ子弟の教育問題を解決するため、先進的な試みを始めた群馬県太田市教育委員会から、バイリンガル指導教員(以下、バ指導教員)の採用試験に、教育指導担当副部長の中島俊明さんら三人が十日来伯した。
「この制度によって日本語能力と共に基礎学力をつけて、彼らが将来展望を持てるようになってほしい」と中島さんは語る。一緒に来伯したのは学校指導課の指導主事の恩田由之さん、外国人児童生徒教育コーディネーターの根岸親(ちかし)さん。
同委員会の資料には「定住を目指す外国人児童生徒の学力向上を目指し、将来の進学や就職への夢を実現させる意欲、すなわち「IF YOU DREAM IT, YOU CAN DO IT」必ず夢は叶うの精神が宿る教育を実践していきたいと考えます」と、その目的が記されている。
十二日に教員候補二人と面接し、採用を決定した。合格した野村百合子さんと山本美枝ラウラさんは今年暮れまでに訪日し、来年四月からの授業に向けて、日本の教育課程についての研修などを受ける予定だ。
従来は、指導助手という立場だったため単独授業は不可だった。しかし、教育特区が認められたため、ブラジルの教員資格しか持たない二人も、特別に県から臨時免許状が発行され、単独で教壇に立つことができるように。日本人教師陣や保護者と力を合わせ、日伯両語を駆使して教えることが期待されている。
太田市には現在、二百八十二人の外国人児童生徒がおり、うち百七十六人(65%)がブラジル人だ。それ以外に三校のブラジル人学校もあり、百二十人程度が通っていると推測されている。
今年から開始した外国人児童生徒教育ブロック別集中校システムでは、市内を六つのブロックの分け、外国人児童生徒を特定の学校に集中させて教育効率を上げる。各ブロックに一人ずつバ指導教員を配置し、小学校では日本語と算数を中心に社会、理科、生活、音楽、図画工作、体育など、中学ではさらに英語を加え、児童生徒の習熟度別にクラス編成し、きめ細かな指導を行うことになる。
さらにサタデースクール(土曜授業)、サマースクール(夏休み授業)を実施することにより、落ちこぼれをふせぐ。そしてプレスクール(入学前指導)によって保護者にも直接語りかけ、教育に対する親の関心を高めてもらう。
バ指導教員には、児童生徒や保護者の悩み事相談を聞き、教育委員会を通して教育現場に反映させることも期待されている。また、バ同指導教員と同委員会、学校長らの間に入って調整する教育コーディネーターとして、元日伯交流協会生でブラジルでの生活経験のある根岸さんが任命された。
一昨年、同市で中学を卒業した外国人生徒は十六人で、うち八人が高校へ進学した。昨年は三十人が卒業し、うち二十人が進学した。現状では、中学卒業までこぎつける生徒も少なければ、学費のかかる高校への進学はさらに狭き門だ。
来年四月から本格的に始まる新制度により、落ちこぼれが減り、高校や大学進学、良い就職への道が開ければ、おのずと非行に走る青年も減るだろうと推測される。
外国人児童生徒への教育に長年携わってきた中島さんは、「中学卒業した後の進路に悩み、壁にぶつかり、問題行動を起こす姿を見てきた。この制度によって、子どもたちの進路選択の幅を広げたい」と語った。