10月21日(木)
【エスタード・デ・サンパウロ紙十九日】新聞記者のウラジミル・エルゾッグ氏生前の写真三枚が新聞に掲載されたことで国防省は十八日、釈明の根拠が不適当であったとする声明を発表した。波紋を呼んだ屈辱的でショッキングな同写真に対する国防省の説明が、六四年の軍部クーデターを正当化する内容で、ルーラ大統領の逆鱗に触れた。同記者は政治犯として拘束され七五年、第二軍団の地下営倉内で変死し自殺として処分された。
十七日付けコレイオ・ブラジリエンセ紙に掲載された写真三枚では、同記者が衣服を剥がれ全裸で拷問と苦汁の日々を過ごし、首吊り自殺をしている。陸軍総司令官アウブケルケ大将名で出された大本営発表は、国際テロの台頭で人民蜂起の危険を未然に防いだ軍部の妥当な措置とした。
写真説明は、ヴィエガ国防相に無断で同大将が署名した。大統領と国防相の戒告により前発表を撤回し、同大将は再釈明を余儀なくされた。総司令官の失脚説もあったが、今回の軍政是非論に終止符が打たれたらしい。政府内でも、古傷をむし返すと評された。
迷宮入りのまま闇に葬られ未だに浮かばれない犠牲者の霊と遺族のために、何らかの対応が関係者の間で叫ばれている。政府や国防省では当時の責任者を白州に引きずり出さず、犠牲者の遺族へ賠償金などで償う案が出ている。
軍広報部が上官に相談もなく軽率に先走ったことが、問題になっている。写真の掲載当時、陸軍大将は外遊中で事件の反響度を知らなかった。軍広報部の当事者は、従来の建前論で処理するつもりであった。政権の中枢を軍政の被害者で占める現在、時代の変化に気づかなかったようだ。
国防省では、過去の「負の遺産」について両論がある。軍ではエルゾッグ記者の件を証拠立てるものが一切隠滅されているので、テロ対策のありふれた話として扱っている。他にもグアララペス事件やアラグアイア事件など、数々あるが立件の仕ようがないという。それが事実だとすれば、軍部は二重構造になっているといえそうだ。
写真の提供者で退役軍人のジョゼ・フィルミーノ氏は当時、軍の命令で労働組合のスパイや要人尾行などを行った。軍から数々の暗殺命令も受け、不思議な交通事故を仕掛けて殺害した。同氏からウイルソン下議(PT)に提供した軍機密情報は、大箱で三個あった。機密書類は多くの部分を解明するはずだが、PTはそれをせずに握り潰したと不満を漏らした。
騒ぎは一応収束したが、傷痕を残した。ヴィエガ国防相の左遷に始まり、打診はないが陸軍上層部の移動は間違いないといううわさだ。大統領は軍部に雷を落としたことで、いまは消火に奔走している。PT内にも、軍政の弾圧未経験組と焼き印を押された被害者議員がいる。
波及は、アルゼンチンにも及んだ。隣国は軍政の犠牲者二万五千人の責任者を、法廷に引っ張り出し裁いた。フォークランド紛争で海底に数珠つなぎとされた犠牲者多数の遺体が、発見されるなど事件が白日にさらされた。アルゼンチンにならって、歴史の恥部を究明すべきだとする声がある。