ホーム | ブラジル国内ニュース(アーカイブ) | 軍政時代の資料をお蔵入りに=大統領が最終決断=尾を引くエルゾグ事件=資料公開は違法

軍政時代の資料をお蔵入りに=大統領が最終決断=尾を引くエルゾグ事件=資料公開は違法

10月26日(火)

 【エスタード・デ・サンパウロ紙二十五日】ルーラ大統領は二十四日、空軍祝典の席で三軍の長と政府高官を前に、軍政時代の極秘資料を封じる意向であることを明らかにした。軍政の史実解明は、全国弁護士会(OAB)や全国司教会議(CNBB)、PT左翼議員連盟などから要請されていた。ジルセウ官房長官は、資料公開は報復合戦を引き起こさない範囲で検討するとした。一方でヴィエガ国防相は、資料を公開するためには法令の改正が必要であると述べた。
 軍政時代の資料公開を禁じる法令は〇二年十二月二十七日、カルドーゾ前大統領によって公布された。それは、ルーラ大統領就任の四日前であった。前政権の〇二年九月にも、法務省が軍政に関する連邦警察の資料公開を要請し、いずこからか圧力がかかり立ち消えとなった経緯がある。
 国会の人権委員会を中心とする議員が史実解明で奔走しているが、軍が事情説明の説得に努めるよう空軍祝典の席で大統領は進言した。大統領は軍政の犠牲者問題は立法府と司法府が取り扱い、政府の役目は経済活性化と雇用創出であって行政府の管轄ではないと放念の意を伝えた。
 アルブケルケ総司令官は、先の軍見解が独裁の古傷に触れたことで再度謝した。左翼活動家の暗殺について実態を知る軍人はいるが、軍内部では絶対口外しない。同席の海軍や空軍の長らも、過去に不明瞭な部分があり、軍部内では常識でも禁句であることを認めた。
 軍政から民政へ移行する前夜、極秘資料の壊滅作戦が執行されたと国防相は述べた。しかしミランダ人権相は政府情報局(ABIN)が、軍政時代の資料を現在も保管していることを暴露した。九三年に当時の政府が、アラグアイア事件の資料を保管していると発表した経緯がある。
 官房長官は、軍部と情報部に保管されている軍政極秘資料の扱いについて、新たな混乱を避けるため慎重を期するよう提言した。官房長官は未亡人クラリッセ・エルゾグさんが過去の傷は癒えていないと訴えたことを取り上げた。エルゾグ事件は独裁政治を容認したことで、ブラジルの外交問題や安全保障問題にも触れるという。ブラジルが抱える負の遺産は適当な時期に、全て清算すべきだと長官の見解を述べた。
 ユダヤ人協会代表のラビ・ソーベル師は「エルゾグ氏を犬死にさせてはならない」と声明を発表した。ユダヤ人女性ゾラさんの子息、新聞記者ウラジミル・エルゾグ氏は拷問の跡を生々しく残した姿でユダヤ人墓地に埋葬されたと同師は追憶する。遺体引き取りでは自殺と報告されたが、ユダヤ教の慣例にならい極秘に検死を行った。同氏の事件が同師に、ブラジル永住を決意させたという。
 クラリセ・エルゾグ未亡人は、サンパウロ市で市場分析会社を経営する。亡夫のあられもない生前の姿が新聞の第一面で大衆の目にさらされるのは、子息、家族の尊厳にかけ耐えられないという。エルゾグ事件は事実が解明されないかぎり、終焉することはないと述べた。