ホーム | 日系社会ニュース | 農業者を顕彰 山本喜誉志賞=苗木栽培の木下さんに=年間200万本 都市緑化に貢献

農業者を顕彰 山本喜誉志賞=苗木栽培の木下さんに=年間200万本 都市緑化に貢献

10月30日(土)

 毎年農業分野で貢献のあった日系人に贈られる山本喜誉司賞に今年、ジャカレイ市在住の苗木栽培者、木下喜雄さん(70)が選ばれ、その表彰式が二十八日夜、文協貴賓室であった。「おれは成功者じゃない。でも、世のため人のために努力する。自我を忘却してやれば人が協力してくれるもの」と、受賞の喜びを語る木下さんに聞いた。

 商業用のバラをブラジルに広めるなど花の苗作りに尽力、都市の緑化に貢献したことが認められての受賞だ。苗木の年間生産量は二百万本(百四十種類)にもなる。だが、半生を振り返ると蘭栽培に失敗し、二億円の借金を抱えた経験があるなど大きな失敗もある。
 十六歳から静岡県の佐野農園で働き始めた。入植後、当時のブームに乗ってカーネーションの栽培に従事したが一年で失敗。バラ栽培に転向する。「カーネーション農家を一泡吹かせてやろうと思った」
 木下さんによると、六三年、ブラジルの全花卉総生産量に占めるカーネーションの割合は八割に上ったが、七五年にはバラと菊がそれぞれ四割ずつに伸び、カーネーションを追い抜いたという。この間に木下さんの作ったバラの苗は六百万本に上る。
 「一番大変だったのは、バラの次に始めた蘭の栽培だった」と木下さん。百万本の蘭を栽培したが、温度管理に失敗。残ったのは二億円の借金。「友達の土地を抵当に入れて借りたお金だから、自殺するわけにはいかなし、頑張って返したよ」
 木下さんの凄いところはその後だ。深刻な状況の中、「四百年後にはブラジルも砂漠になるという話を聞いて、それを防ぐために苗木を作り始めた」。苗木の栽培はビジネストとしても成功。「二年後には借金も全部返したよ」とあっさり言う。「どうすればよくなるのか常に考え続けたことがよかった」
 木下さんは「今後も砂漠化防止活動を拡大していきたい」と意気込む。「ガタパラのJATAKブラジル農業技術普及センター(塩谷哲夫所長)に砂漠化防止を研究するための植物園を作ろう」と塩谷所長らと計画中だ。
 山口県出身、一九五六年来伯。

 文協で恒例の表彰式=日系学術功労者は大竹氏

 二十八日は山本賞のほか、コロニア文芸賞、三井住友銀行基金の学術研究費対象者ならびに、日系学術功労者に対する表彰もあった。日系各団体の代表者など約百二十人が出席した。
 コロニア文芸賞は矢島健介さん(サンパウロ市、本名・梅崎嘉明)に、日系学術研究功労者表彰は建築家のルイ大竹さん(サンパウロ市)。
 三井住友銀行基金の学術研究費補助金はパウラ・ムニョスさん(ピラシカバ市、農学)、ミリアム・ウエミさん(サンパウロ市、生化学)、サンドラ・イノウエさん(ロンドリーナ市、栄養学)、マルコ・アウレリオさん(サンパウロ市、生態学)のそれぞれに贈られた。
 さらに、同銀行は学術研究功労賞としてフゴ・クニユキさん(カンピーナス市)と、高齢者研究賞のルシィー・イトウさん(サンパウロ市)を表彰した。
 受賞者を代表して、大竹さんがあいさつ。「私はアレイジャジーニョの宗教美術に影響を受け、オスカー・ニーマイヤーに師事してきた。だが、一方で、私は非常に繊細な日本の伝統も受け継いでいる」と、自身の建築スタイルを説明。ブラジルと日本の両文化を受け継いでいることから、「僕たち二世は日本とブラジルの懸け橋になれる」と言葉を結んだ。