11月10日(水)
「私はね、グァタパラ移住地の一角に植物園を作っていろいろな樹木のタネを採取して、どんどん苗木を増やしたいのです。砂漠化防止のためでもあり、お世話になっているブラジル国へのお礼でもあるのですよ」と力強く理想を語るのは木下喜雄さん(七O)だ。農業者に対する最高の栄誉といわれる山本喜誉司賞を、去る十月二十八日に受賞した(本紙十月三十日報道)木下さんを祝う集いが、七日、サンパウロ州ジャカレイ市にある日系人会館で行われた。その時の謝辞の冒頭に木下さんが披歴したのが「グァタパラ植物園」構想だ。
ジャカレイ市で七十ヘクタールの土地に百四十種類、二百万本の苗木を育てているが、土地が痩せているため、苗木はできても、種子を採取できるような成木を育てるのに年月がかかり、非常に困難だ、という。
これに対して、グァタパラには肥沃で広大な土地があるため、早くから着目していた。
山口県出身の木下さんは、静岡県にある富士中央開拓講習所で訓練を受け、一九五六年に着伯した。「ブラジルで緑化を進めることが私の生涯の仕事」と豪語して止まない。
その背景には「食糧を増産するにも、電力を確保するにも水の存在が不可欠である」という一貫した論拠があり、UNCTAD(国連貿易開発会議)の最近の報告書が指摘するように、「十年以内にブラジルは世界の食糧基地になる」にしても、「木を植えていかなければ、四百年~五百年後にはブラジルは砂漠化する」と警告を発信し続けているのだ。
栄華を誇った古代文明のいくつかが崩壊したのも樹木の減少に起因していることは、歴史が証明している通りである。
受賞祝賀会は、地元のジャカレイ文化協会(天海カルロス徳一会長)が主催した。この席で、木下さんが披露した構想を六項目にまとめると、(1)グァタパラ植物園の建設、(2)砂漠化防止のための苗木生産、(3)有用樹の生産、(4)防虫害防除のための混植、(5)チップ材の生産と単位面積での収量増加、(6)薬用樹の生産――だ。
具体例として、有用材としてのチークの植林、薬用樹としてのサポチ(麹菌材)やタヒボー(がん予防)の増植、などを挙げた。砂漠化防止のための植林として、道路では20×20メートルで良いが、乾燥地では10メートル間隔が適当、という具合であった。
山本喜誉司賞をはみだすほど意欲満々な日系社会の誇りは、今日も遠い未来を見据えているようだ。