11月19日(金)
「我が町にブラジル総領事館を!」――。一万三千五百人のブラジル人を抱える静岡県浜松市は十六日、総領事館を誘致すべく、市職員ら三人を首都ブラジリアへ送り、二万九百八人分の署名を外務省在外ブラジル人支援局に手渡した。三人は十七日午後、文協会議室で記者会見を行い、官民とブラジル人コミュニティが一体となって誘致運動を盛り上げているとアピールした。また、広島市も候補に上がっており、共に誘致合戦を繰り広げている。
市国際課の松尾良一課長は「地図で見れば、名古屋には近いが距離だけの問題ではない。多くのブラジル人が仕事を休んで二時間以上かけて名古屋へ行って手続きをしている。浜松市は〃外国人との地域共生〃を掲げており、市民である彼らの利便性を考えて誘致に乗り出した」と説明した。
現在、在日ブラジル公館は東京都の大使館・総領事館と愛知県の名古屋総領事館在のみだ。在日ブラジル人約二十七万人中、静岡県以南を担当する名古屋総領事館管轄には十七万人が住んでいるが、同市から約百十キロ離れた浜松市内には一万三千人、同市を中心した豊橋市や豊田市など近隣エリアを合わせれば七万人が居住しているという。単純計算では四人に一人だ。
支援局側はペレイラ次長とヴァスコンセロス室長が署名を受け取り、「浜松にはたくさんのブラジル人が住み設置の必要性は高い。たくさんの署名をいただき驚いている。大統領に伝えます」と話したという。
コミュニティを代表する浜松ブラジル協会の石川エツオ会長(二世)は「今回以前から誘致の要望はあった。来年五月、大統領が訪日する際はぜひ浜松に来ていただき、コミュニティと共に市をあげて歓迎したい」と地元の熱意を支援局に伝えた。同協会が署名運動の音頭取りをし、八割が地元日系人、残りが日本人だという。
(財)浜松国際交流協会の野々山勇専務理事は「二週間でよく集まったと驚かれた。我々の熱意がアピールできたのでは」と報告した。
現在、同市在住ブラジル人は幾つかの問題を抱えており、総領事館ができればそれが改善されると地元ではみている。例えば、二割近いといわれるデカセギ子弟の不就学問題、社会保険未加入問題などに総領事館が目を光らせてくれるのでは、と期待している。
もともとは十月七日に支援局長のルイ・ノゲイラ氏やエウリッコ・デ・フレイタス名古屋総領事らが、同交流協会や市役所を訪れ、この件に関して懇談したことから動きが本格化した。その際、北脇保之市長や同市商工会議所の中山正邦会頭名で誘致要請書を渡した。その後、署名を集めはじめ、今回提出となった。
「来年のルーラ大統領訪日の時にでも、何らかの判断が出るのでは」と松尾課長は期待を述べた。
一方、九日付け中国新聞は、広島県などは八日、総領事館誘致の方針を決めたと報じた。「藤田雄山県知事が十一日、東京都内の同国大使館を訪れ、設置を要望する」とあり、「戦前から多くの県民がブラジルに移住した歴史や、昨夏にはサンパウロ市にブラジル県人会館を新築した交流実績も強調している」。県在住ブラジル人は昨年末現在で約五千二百人いる。
同支援局としては、今ある公館設備を拡充して対応するという選択肢を残しており、「現地ブラジル人コミュニティの意見を聞きながら考える」との方向だという。