11月25日(木)
十三日午前、一行はバナナ園を後にし、ジャナウーバ市の北西、ジャイバ市に連邦と州の共同潅水プロジェクト、JAIBA計画の現場を見に行く。
山田さんのおかげで、今や全国的にジャナウーバ市が〃バナナの都〃として知られているが、その大半はこのジャイバなど北ミナス全体で生産されている。
JAIBA計画の潅水設備が完備したエタッパ1(第一段階)の二千四百ヘクタール分はすでに営農が開始され、来年三月からはエタッパ2(第二段階)が本格的に始動する予定だ。先頃このエタッパ2に、山田さんは入札で二百ヘクタールの土地を買った。
「どの土地を選ぶかで、すごく悩みました。ちょうど風邪を引いて寝込んでいた。でも、無理やり起きて、カミヨネッテ(トラック)の荷台に地図を持って乗って、候補地を次々に見て回りました。運転している健康な若者がクタクタだと文句を言ってくるのを聞いて、自分の風邪が吹っ飛んでしまっていたことに気付きました」と回想する。
プロジェクト以前にこの周辺の土地の所有者だった人から、「お前の買った所は最高の場所だ」と言われ、山田さんは報われたと感じ、「一生懸命やると、いい方向に導かれる気がする」と思った。
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ドロドロドロ――、地響きが聞こえてきた。遠くから砂煙を舞い上げて、約三百頭の牛がバッケイロ(牛飼い)に追い立てられて、こちらへ移動して来た。今日は予防接種をするのだという。
百七十ヘクタールのバナナを栽培するFazenda Coloradoを横目に、三千頭の牛を飼育するFazenda Verdinhaへ。農場のゲストハウスで野趣満点の昼食が用意され、一同は心尽くしのシュラスコで歓待される。
三千頭いるが〃本業〃ではない、という。「息子が牛が好きだし、銀行に入れとくより、牛にした方が良い貯金になる」。仔牛でも親牛でもすぐに現金化できるので、バナナ園で資金が必要になった時の〃生きた貯金〃だ。
山田さんの妻、由美子さん(二世、レジストロ出身)に、ジャナウーバに来た頃の話を聞いた。「やっぱり嫌だったよね、最初は」と回想する。
「だって、誰も聞いたことないところで。レジストロのみんなから、『どうしてあんな所へいくの?』って聞かれました」。
由美子さんは「最初はとても心配でした。だって二人とも親戚はみんなレジストロでしょ。でも、反対はしませんでした。言い出したらきかない人ですから」と目を細める。
九月の盛和塾全国大会(京都)には由美子さんも出席。最優秀賞が贈られるのをその目で見た。「嬉しくて涙が出ました。一生懸命がんばったから」。山田さんは日本中から集まった約千七百人の塾生を前に体験発表するという初めて体験のために、その前夜かなり緊張していた。
その時、由美子さんは「観客をバナナだと思ったらいいじゃない」とアドバイスし、夫の緊張をほぐしたそう。「今思えば、やっぱりここへ来て良かったと思います」。
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北東伯の流域民から〃聖なるシッコ・ヴェーリョ〃と敬愛されるサンフランシスコ川――。そこから十八メートルも汲み上げて同計画地の用水路に水を送り込む心臓部、JAIBA揚水ダムを午後三時半から見学する。九基設置されているポンプはもちろん日本製だ。このエタッパ2自体にも国際協力銀行(JBIC)の資金が注入されている。
ジョアン・ボスコ・デ・カルヴァーリョ農業技師によれば、川の最も水位が低い時の水量の一〇%を揚水しているので、下流への影響は少ないという。揚水・潅水設備はほぼ完成しているが、肝心の営農がうまく行っておらず問題になっている。特に個人入植した人(五ヘクタールの小農)の三分の一は退耕してしまっている状況だ。
その中で、気を吐いているのはやはり山田さんのような存在だ。同技師の話し振りからして、地元からの山田さんへの期待振りが伺えて興味深かった。
夜九時からの勉強会で、NY塾生の残り三人が発表し、再びプール脇のバーで深夜まで語り合った。
つづく(深沢正雪記者)
■盛和塾ブラジル=カジャマンガの樹の下で=バナナ王 山田農場を視察(1)=情熱とひらめきで頂点に