黒沢明監督の作品「羅生門」は、芥川龍之介の「薮の中」を脚本し映画化したものでベネチュア国際映画祭でグランプリに輝いた名作だが、元首相の橋本龍太郎氏の1億円献金事件も、さっぱり解らない。日本歯科医師連盟から1億円の献金があったのは事実なのだが、その後の経緯が謎のまた謎。「羅生門」ではないけれども、山中で人を殺したのは誰か?が、それぞれの主張によって「薮の中」なのである▼橋本氏は衆院倫理委で「関係者の証言があり、銀行に入金されているのだから受け渡しは客観的な事実」と弁明しているが、この程度では誰もが納得すまい。歯科連盟の証言では料亭の酒席で1億円の小切手を手にすると洋服の内ポケットの入れたことになっているのに―そんなこは一言も喋っていないらしい。この倫理委が非公開なので関係者以外は誰も現場を見てはいないのだが、それにしても、空々しいと言うしかない▼派閥の会計責任者だった滝川俊行被告と元官房長官の村奥兼造被告の発言もまったくの平行線である。献金授受の酒席に出席したはずの野中広務・元幹事長も参院議員で実力者の青木幹雄氏も「出席したのかどうかは『記憶にない』」の一点張り。兎にも角にも、一人一人の言うことが自分勝手と申すべきか核心のところはぼかしてしまうのでは、何が事実なのかと国民の疑いが深まるのも致し方あるまい▼政界は昔に比べると「きれいな世界」になったとは言うが、まだまだ薄汚れているのではないか。表舞台は美しく飾っていても楽屋の奥では闇のカネが動く。そんな悪事と汚職を垣間見るような橋本元首相らの「闇の1億円献金」のような気がしてならない。 (遯)
04/12/4