県人会から世界へ飛躍＝シリア系コミュニティとクルーベ・ホムス＝連載（下）＝運動設備から娯楽まで＝「自分たちの文化、伝統を維持することでブラジルに貢献する」

12月11日（土）

　レスカラ・トゥーマ顧問評議会会長は、元連邦警察トップで政治家に転進したのロメオ・トゥーマ連邦下議の兄だ。父Zike Tuma氏はオムス出身で、母アメリカはサンパウロ州モコカ市生まれの二世だ。
　父のふるさとオムスは、レバノンの首都ベイルートなどの地中海沿岸都市と、黒海やトルコを結ぶ交通の要衝として、古代から栄えたシリア有数の商業都市だ。しいて例えれば、大阪のような存在か。現在でも郊外には宮殿などの遺跡が数多く残っている。
　「父は一九〇八年に渡伯しました。当時のオスマン・トルコ帝国の迫害を受けて、ブラジルへ逃げてきたと聞いています」。現在でもアラブ系商店主が主勢力をなす、三月二十五日街で父が商店を経営している時に、次男ロメオ氏は生まれた。
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　クルーベ・ホムスの会員専用口から入って左奥には、週末にコミュニティの人々が集って伝統音楽のライブ演奏などもするアラブ式バール、その奥にはビリアード場（十台）、さらに「ガモン」という白と黒の丸い円盤を進めて相手の駒を取るアラブ式囲碁のようなゲーム部屋（約三十台）などがある。
　最上階の三階へ上がると半分が屋上になっており、南米最大の金融街、パウリスタ通りに面した場所に、屋外プールとシュラスコをするスペースがあった。「まさか、パウリスタ通りのど真ん中、こんな場所にプールがあるとは誰も思わないでしょ」と同会長は誇らしげに微笑む。
　同階には、四百人は収容できるミニステージやバーカウンター付きの宴会場、四人ずつ座れるトランプ専用机が三十台ある女性用遊戯室、その横には託児室や炊事室もある。
　一九二〇年にクルーベは創立。建築工事を始めたのは五〇年代で、追加工事を重ねて八〇年代に現在の姿になった。個人会員は約八百人程度だが、法人会員などを総計すると二千以上とのこと。文協の総会員数が二千二百五十だから、意外と多くはないことに驚く。会員の〃質〃が違うのか。
　二階部分には、壁に全面ガラスが張ってある約十メートル四方のダンス練習場が二つと、専門のインストラクターがいて各種運動機器のあるフィットネス（筋肉トレーニング）場がある。
　ここの特徴は、南米で最高レベルの心臓外科の技術を持つというインコール（心臓専門病院）と提携して、同院から三人の専門医が派遣されており、心臓手術をした人のリハビリをする特別コースが開設されていることだ。もちろん会員外にも解放されており、規定の料金を払えば誰でも利用できる。
　地下には運動用の本格的なプール設備もあり、組み合わせプランに応じて料金を払えば利用できる。
　一階部分は、両側が回廊になっている一千五百人収容のアラブ式大講堂、商業ショーにも使える千人以上収容できるモダンな大講堂、二百人収容の会議室も。「全ての施設にはエアコン完備です」と胸を張った。
　これらの施設は全て会員外にも賃貸する。「パウリスタ通り周辺の企業とかが、よく借りてくれています。日系の団体・企業もぜひ活用してください」と宣伝も忘れない。
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　「アラブ系コミュニティはすでに閉鎖的な時期を終え、混血期の真只中にある。日系もそうじゃないの？」と同会長は問う。中心世代は四世ですでに六世も誕生している。ようやく五世誕生かという日系よりも十数年先を行っているが、宗教を通してアラブ語を維持している、という。
　「私が見るに、多くの日系子孫は日本古来の宗教を捨て、固有の言葉を忘れ始めているようだ。我々、外国文化コミュニティは文化も言葉も失ってはいけないと思う」と警告する。
　「ブラジルという国家は、常に〃世界の友人〃であってほしい。そのために、どんな国と交流する時でも、その国の文化を理解し、言葉をしゃべる、血のつながった人たちがいることは大きな助けになる。日本だってそうではないか。ブラジルの政治家が日本へ行く時、日本語を話す人間が何人も付いて行けば印象が変わってくるのでは」
　最後に、「自分たちの文化、伝統を維持することによってブラジルに貢献する。移民系コミュニティは〃世界市民〃としての役割をしっかり自覚することが重要ではないだろうか」と力を込めて語った。
　いつの日にか、どこかの県人会が大躍進し、アジアと南北米の貿易振興を仲介するような役割を果たすところが、出てこないとも限らない。　　　＝終り＝　
　　　　（深沢正雪記者）

■県人会から世界へ飛躍＝シリア系コミュニティとクルーベ・ホムス＝連載（上）＝中東との貿易振興図る＝宗教でアラブ語教育