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自閉症=生活療法に効果③=顕人くんの新たな一歩=両親はいま「希望で一杯」

12月22日(水)

 矢野恵美ちゃん(8)の甲高い叫び声に、高行さんは表情を変えた。
 「パパ、ママ!」
 高行さんは椅子を蹴るように立ち上がり、声の方に走った。
 顕人くんがマンションの窓から外に飛び出そうとしていた。
 「こら、そんなことしちゃ駄目だろ」
 息子を抱きかかえ高行さんは願うような表情で注意した。
 症状は確かによくなったものの道はまだ遠い。また、治療で症状が一時的に改善しても「あるレベルまで達しないとすぐに元の状態に戻る可能性がある」と、三枝さんは指摘する。継続的な療育が求められている。
 和美さんが頼み込み、自閉症になる前に行っていた日系の幼稚園に先月末から通い始めた。
 生活療法では健常児と一緒に教育を受けること(=混合教育)が良い刺激を与えると言われている。
 幼稚園を訪れた三枝さんは、「恵まれている状況です。周りの子も変な目で見ませんし、顕人くんも集団の中にいるのが好きな感じ。それにみんなで一緒に遊んだりしていました」と、同幼稚園での混合教育が顕人くんの症状改善に役立っていることを評価した。
 しかし、来年か再来年には卒園する。自閉症児は現在のブラジルでは小学校はおろか、幼稚園に入るのもやっとだ。「次の段階として受け入れる学校づくりをする必要がある」と三枝さん。
 「うちの子だけこんなによくなっていいんでしょうか。他の子に悪い。せっかく生まれてきたんだから幸せに生きて欲しいじゃないですか――」
 モンテビデオヒガシ学校から戻って来た顕人くんを見て、今、矢野さん夫妻はブラジルにも学校を作ろうと動き始めた。
 人材や施設の協力を求め、三枝さんと供に日系の福祉団体とも接触を取り始めている。
 生活療法は自閉症児や健常児が集まり、互いに刺激しあってこそ最大限に成果を発揮する。仲間も必要だ。
 高行さんは希望者に対し、最低一カ月間、ヒガシ学校で症状の度合いの検査を受け、訓練することを勧めている。同校も三枝さんのいる来年の四月まではブラジルからの自閉症児を受け入れる方針だ。
 二人にはモデルとなる人物がいる。ヒガシ学校を作ったフェルナンド・ストッツさん夫妻だ。
 ストッツさんもまた自閉症の息子を持ち、まったく生活療法の知られていなかったウルグアイで一九九三年、義父宅を使って生活療法を実践し、翌年にはそこを学校にまで発展させた。今では職業訓練施設まで併設されており、まさに〝自立〟のための教育が行われている。
 「ストッツさんのモデルがあるので、十一年遅れですが同じ道を歩んでいきたい。リーダーシップはとったことないですが、出来るかぎり死ぬまでやっていきたい」
 三枝さんをサンパウロ市内のホテルに送る車中、高行さんは「これまではとてもつらかったですけど、今は希望が一杯です」と語った。「それは顕人くんのことを信じられるようになったからよ」と、三枝さんは高行さんの肩をなでるような口調で言った。
 「そうですね。顕人はこんなこともできるんだと分かって、顕人の将来に可能性が見えて来ました」。
 ブラジルの自閉症児のために新たな一歩が踏み出された。
        おわり。
    (米倉達也記者)
 関心のある人は、11・6633・2420(矢野さん)まで。

■自閉症=生活療法の効果①=何年ぶりかに「ママ、パパ」=ブラジルでの普及に期待

■自閉症=生活療法に効果②=施設、指導者が不足=望まれる日本政府の支援