趣味を訊かれて、「街歩きです」と答えると、ブラジル人は決まって意外そうな顔をする。
落書きだらけの通りを防弾車が走る市街地を散策するくらいなら、公園へどうぞと親切にアドバイスしてくれたりする。
でも、ダメだ。人種、風俗、歴史が入り混じる風景が好きなのだ。昔噛まれた経験があるから、公園の大型犬も怖いし。
だから、わたしは例えば、ルス駅界隈を徘徊してみる。結婚衣裳や、警官、コックらの制服を売る店が並び面白い。冷やかしつつ、チラデンテス通りを北へ向かえば、宗教美術博物館がある。
元修道会を改修した同館が意外な穴場だ。収蔵する美術品は約四千点、十八世紀後半に建てられたという土壁の部屋もそのまま保存されている。
ひんやりと湿った部屋の匂い。生きていない時代なのに、その匂いの周辺には二百年前のサンパウロ市がなびいてみえる。 (大)
05/1/25