1月27日(木)
【フォーリャ・デ・サンパウロ紙二十六日】ルーラ大統領は二十五日、シリアのバシャル・アル・アサジ大統領にイラクで拉致されたブラジル人ジョアン・J・ヴァスコンセーロス・Jr氏の解放に向け仲介の労を依頼した。アサジ大統領は快諾したが、米政府からイラク武装勢力を背後で支援している疑いを持たれているとも述べた。イラクは五日後に選挙を控え、選挙の投票所十か所が襲撃され、裁判官一人と市民十三人が殺害された。
ルーラ大統領は二十五日、ブラジル人拉致事件解決のため関係諸国の協力を求めて行動を開始した。最も有力な反応は、シリアの独裁者からだった。アモリン外相の談話では、アサジ大統領が出来る限りの努力を惜しまないと約したという。
イラクのスンニ派宗教団体や武装勢力を含む民間団体は米軍の武力介入後、シリア国内へ拠点を移し活動している。ブラジル政府の要請は、シリア政府と国内へ拠点を設けたイラク人との間で、何らかの紛糾を起こしそうだ。
外務省は二十四日、シリア政府が武装勢力の活動を看過することで敵対していると米政府に訴えられているので、政府の要請結果はシリア大統領の判断次第だとした。ルーラ大統領はイラクと直接、間接的に関係がある中東諸国へ連絡を取り、アドバイスを求めた。
拉致被害者の勤務するオデブレヒト建設会社の関係企業が引き起こした事件として、外務省は同件を非常事態扱いとした。二十二日は動向を確認し、二十三日に行動を開始した。ミランダ人権相や大統領護衛室のフェリックス大将などは、国内のアラビアやイスラム教関係機関へ連絡を取った。
外相は、中東問題が専門の外交官オウロ・プレット氏をヨルダンのアンマンへ派遣。アンマンには、イラク関係を取り扱うブラジル在外事務所がある。同氏は周辺国を回って事情調査を行い、最後にバグダッド入りする。
〇三年に中東和平仲介の労をブラジル政府から申し出たのも同氏だ。人質を拉致した武装組織とのチャンネル開設に奔走し、拉致の動機解明へ努力する。政府の指示で、解放への交換条件なども探る。
イラク問題の専門家は、拉致の理由や組織の中心人物が分からないまま、シリアのアサジ大統領に仲介の労を依頼したことを早計とみている。アサジ大統領は複雑な立場へ追い込まれ、イラク暫定政府も狼狽すると予測している。
シリア政府はサダム・フセイン失脚後、武装勢力の温存を理由とする米国からの武力介入を恐れている。ブラジル政府からの介入要請で、国際政治の観点から事態が微妙になった。アサジ大統領の仲介工作が成功するなら、同大統領は武装勢力やテロリストと深い関係があることを内外へ宣言したことになると米政府は解釈する。
人質解放で一肌脱ぐためには、アサジ大統領が米政府を説得して了解を得なければならない。シリアはイラク国境を固め武装勢力の出入りを止めることを米政府に誓わねばならない。そうすると武装勢力やテロリストの矛先が、シリア政府へ向きかねない。