入居者とともに、歩んでいきたい──。パラナ老人福祉和順会(佐々木陽明理事長)が今年三月十五日、創立三十周年を迎える。戦後、北パラナ開拓の拠点だったマリンガ市には、全国各地から多くの移民が押し寄せた。夢破れた日系人に救済の手を差し伸べるため、マリンガ日伯寺の付属事業として和順会が立ち上げられた。「布教活動に、福祉を利用しない」のが大原則。入居費無料の老人ホームではパラナ随一の優良施設だと、州政府から評価を得ている。記念式典は六月二十六日の予定。
百二十四メートルの高さを誇る円錐型の中央教会。市の中心街から自動車で十分ほどの距離に、マリンガ日伯寺が建立されている。
「市から観光スポットの一つに指定されています」。佐々木理事長は胸を張って、本堂を紹介する。太鼓ブームが北パラナにも伝播。子供たちが練習に集まってきて、結構賑やかだ。境内の奥に和順会がある。
七十人収容可能な施設に、約五十人が入居。ゆったりした印象を受ける。鳥のさえずりや虫の鳴き声が絶えない。自慢は浴場を持つこと。「寝つきの悪い時に、ゆっくり湯につかるとぐっすり寝られます」(佐々木理事長)。
日系医師ら約二十人がボランティアで診察などを実施。医療・保健面が充実していることも自負する。
マリンガの開拓は一九三八年に始まり、四〇年代に入って本格化した。居住五十四年になる植田憲司副理事長によると、日系人口は五〇年代に急激に増加。六〇年代には、数百家族に達していた。不運にも、事業に失敗した日系人は少なくなかった。
生活困窮者は、非日系人の施設に入った。加齢するにしたがって、言葉や生活習慣からくる問題が表面化した。
マリンガ日伯寺は一九七四年一月に開設した。「あなたしか、福祉施設を運営出来る人はいません。土地を寄贈するので、施設をつくってほしい」。地元でバス会社を経営していた岡本パウロさんが、頼み込んできた。佐々木理事長が「こどものその」の園長を足掛け六年した実績などを見込んだのだ。
マリンガは、ロンドリーナやウライなど北パラナの主要都市を結ぶ交通の要衝。パラナを中心に約三百人の発起人が集まった。宗教の宣伝のために施設を使ってはならないという、長谷川良信・浄土宗南米開教初代総監の教えを守ることを誓った。
十人ほどでスタートした和順会。入所者は、文字通り財産と言えるものがない人たち。「親子の不仲ぐらいでは、入居出来ない」。支払い可能な人と不能な人が〃同居〃すれば、いざこざの原因になるからだ。
連邦政府から、公益福祉団体と認められたのは、ごく最近のこと。定款上、日本人や日系人が対象者になっており、「人種差別」とレッテルを貼られていたのだ。
マリンガ市を始め、国際協力機構(JICA)、現地文協、浄土宗などの支援で設備を拡充。移民九十周年ごろに、州政府が無料の施設の中でパラナ州ナンバー1と評価すると、市が連邦政府と掛け合ってくれ、悲願を達成した。
三十周年を記念に、会員増加運動などを展開。記念事業とは別に、地域住民を対象にデイ・サービスやショート・ステイを研究していきたいところだ。
植田副理事長は「日系を含めてイタリア、ポルトガル、スペイン系などコロニアに良い意味での競争が生まれている」と話す。佐々木理事長によると、浮浪者の日系人がいて恥ずかしいと三世が協力を求めてきたこともあるそうだ。
六月二十六日の記念式典では、追悼法要、協力者への表彰、記念講演などを行う。
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