3月16日(水)
果実にしても、野菜にしても収穫時期になれば、農家は家族ぐるみで大忙し。一年間通じて労力を惜しまず手入れをしてきた農作物の出荷です。しかし、その時期に訪ねた農家の人たちの顔は、いつも浮かない顔つきです。あるトマト栽培農家を訪問しました。
長命種のトマト栽培でいよいよ収穫が始まっていました。一日中出荷用トマトをちぎっている人たちに混じって、私も半日手伝いましたが、慣れない私は,昼食を終えると足腰の痛みでどうにも身体が動きません。「農家は大変だな」と実感したものです。
トマトの値段について話しを聞きますと、一箱二五㌔入りが、サンパウロの中央市場で売値が二十八レアル。この値段からサンパウロまでの運賃、販売手数料、木箱代金を引くと手元に入る代金は十七レアル。さらに労働者への賃金、病害虫防除の農薬代金、点滴潅水での液肥代金、支柱用竹材の伐採・搬入代金、元肥の堆肥・化成肥料代金、育苗種子と育成手数料と運賃などを差し引くと、最後に手元に残るのは箱当たり四~五レアルしかないといいます。
市場にトマトがあふれる時期にぶつかると、値段が暴落し手元に残るのはほんの涙銭。それでもこれを続けないと食べていけない、といいます。
また、大雨が降ったあと必ずといっていいほど、病害が発生するため、農薬散布して防除しなければ、全滅してしまいます。さらに、防虫処理を怠ると害虫に実が害され、売り物にならなくなってしまいます。 このようにして、きれいで高いトマトを出荷するためには床土づくり、苗の定植から収穫が終わるまで、毎日、日曜祭日もなく手入れの連続です。農薬散布に防除マスクや防護被服を着用しないと自分の命を縮めかねません。それこそ、命がけのトマト生産です。
もっとも、作物の価格が生産コストに見合うもので、農家が十分満足のいく代金が手元にのこれば、だれもが喜んで、もっと品質のよい健全なトマトづくりにも励むでしょうが……。しかし現実はそうではない様です。
化成肥料や農薬、果ては液肥材の大半が輸入品のため外貨換算で毎年高騰しており、もし、雇い入れた農業労働者と喧嘩でもしようものなら、労裁判に持ち込まれ、その収穫代金はゼロに等しくなり、下手をすれば全財産を失うこともまれではないといいます。
生産物の物流システムがおかしいのではないかと、生産者側に同情します。しかし、生産者が自分で販売ネットワークを持っているのはごくわずかで、販売仲介業者に任せなければ、収入が得られない農家が圧倒的に多いです。
日本からときどきやって来られる、ガンコ村の横森さんは、組合や販売仲介者から離れて、ご自分で販売ネットワークをつくり上げた方のようです。そこには、有機野菜など品質によほどの自信があり、消費者に絶大な信頼があればこそできる姿が想像できます。結局は生産者が消費者の欲しいとする品質のよい有機農産物、無農薬野菜などが常に提供できる体勢になれば、逆に販売店が産地へ買い求めに来て、順当な販売価格が生まれてくるといいます。
高齢化の進む現代社会では、これから先には消費者が農家のご苦労を理解しながら、ホンモノ志向がすすみ、安くておいしい、安全な無農薬農産物を買い求めるようになってくるでしょう。安けりゃー何でも食べる時代は終わりに近いと考えてはどうでしょうか。そこには産地直送という手段もありましょう。(つづく) 筆者・成田修吾農業コンサルタントの連絡先は電話9625・1814。