3月25日(金)
【エスタード・デ・サンパウロ紙十九日、二十日】ブラジル人の米国への密入国と不法就労は年々増加傾向にあるが、ここにきて米国の入国管理局の取締りが強化され、一週間で七十五人が逮捕された。逮捕されたのはマサチューセッツ州の不法滞在者で、一人のブラジル人がグリーンカード(永住権)を得るべく官吏をワイロで買収しようとして現行犯で逮捕されたのをきっかけに摘発が行われた。これにより同州で八千人から一万人と言われるブラジル人不法滞在者は、摘発を怖れて外出も控えているという。いっぽうでコネチカット州では、百二十人の同郷のブラジル人が不法滞在にもかかわらず市民に溶け込んで「出稼ぎ」の目的を果し、明暗が浮き彫りとなっている。
マサチューセッツ州でもブラジル人不法滞在者が多いとされるハートフォード市では、これまで七十五人が逮捕されているが、当局は摘発をさらに推し進める方針を打ち出している。このため同市の不法滞在者は戦々恐々の日々を過ごしている。
その多くはコヨーテと呼ばれる密入国あっせん業者に支払った一万ドルの借金返済に追われている身だ。そのため仕事に行かねばならいが、摘発の心配もあるというジレンマに陥っている。逮捕者の中にはミナス・ジェライス州から四日前に同市にたどり着いたばかりという不運な者もおり、強制送還になる可能性が強く、親戚から集めてコヨーテに払った借金をどうするか頭を抱えている。
外務省が得た情報によると、ここ三日間で四十人のブラジル人がメキシコと米国の国境で、国境パトロール隊に逮捕された。このうち十人が女性、五人が子供だったという。詳細は明らかにされていない。犯罪専門筋によると、コヨーテが子供連れなら米国当局が見逃してくれるという虚偽の情報を流して、密入国希望者を募っているとのこと。
国境での逮捕者は過去七十日間で二万人に達している。二〇〇三年には四千三百人、〇四年は八千五百人だった。このまま推移すると、本年度末までに十万人が密入国を図るものと見られている。
こうした「暗」とは対照的に「明」を浮き彫りにしているブラジル人達もいる。コネチカット州ブリッジポート市に住む百二十人だ。かれらはもちろん不法滞在者だ。彼らは全員パラー州トゥクマン市の出身で、自分らのことをトゥクマン人と呼ぶ。同市では小作農や大工、製材所に従事していたが、森林が減ったことで失業し「出稼ぎ」に来た。
ブリッジポート市は森林地帯で、彼らの熟練工としての技が役に立った。木造の高級住宅にはトゥクマン市から輸出された木材が使用されており、その製材や修復は彼らにとってお手のもので次々と注文が入った。さらに庭や木の手入れも任されるようになり、市民も片言の英語しか話せない彼らと融合した。二年前までは十二人のトゥクマン人しかいなかったが現在は百二十人になっている。
彼らは毎週フェイジョアーダやシュラスコ、ディスコを楽しんでいる。親戚や幼なじみばかりなので三人から七人の共同生活で経費を浮かしている。なかには郷里に二百アルケール(アルケール当たり時価八千レアルから九千レアル)の土地を有し、四百頭の牛を抱える大牧場主もいる。夢は一千頭にすることだという。人口四万人のトゥクマン市長によると、さらに三百人が米国に渡る計画とのこと。森林の消失により産業が衰退した同市にとって、彼らの送金は多大の経済効果を与えていると賞讃している。
米国では各州毎に法律が制定されているため、トゥクマン人は不法滞在摘発の心配はない。しかし彼らもここにたどり着くまでは、ほかの密入国者と同じ経路をたどってきた。コヨーテの本拠のあるゴイアス州に行き、一万ドルを支払ってサンパウロ経由でメキシコに空路入りし、後はお定りの死の砂漠を横断した。国境パトロール隊に出くわし二日間サボテンの陰に身を潜めた者もいたという。新たに密入国を計画しているトゥクマン人にも死を伴う冒険が待ち構えている。