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『七人の出稼ぎ』単行本に=山里さん 日ポ語同時に書き進めて=「移民100年、責任果たしたかった」=すばらしいバイリンガル

4月7日(木)

 二年前、ニッケイ新聞に連載された山里アウグストさんの長編小説『七人の出稼ぎ』が、このほど、単行本として出版された。日系社会では初めて、ポ語版『OS7〃DEKASSEGUIS〃』もほとんど同時執筆されていて、これも同時出版された。日ポ両語を自在に使いこなす山里さんならでは、の画期的な仕事だ。出版にあたり、(社)倫理研究所ブラジル支部の久保田喜美子さんが後援をした。
 『七人の出稼ぎ』は、登場人物七人がそれぞれ出稼ぎを通して、さまざま問題を抱え、悩み、解決の糸口を探す姿が生き生きと書かれている。生きることの真の意味を考えさせられる小説である。本のカバーの帯には「人間性喪失のシンドロームを創り出す時代の陥穽からあなたを救い、守る道がある」と一読をすすめている。
 著者の山里さんは「日本移民が百年を迎えるとき、移民の子孫の一人として、なんらかの責任を果たしたい、と考えた。できることは、文字で表現することだ」と行動に移したと言う。
 書き始めて、締め切りに追われながら、日本語を読む層とポ語を読む層ははっきりと違うことが改めてわかった。ニッケイ新聞社に日本語原稿のフロッピーを届けながら、ポ語でも書き出した。同一人が書いたのだが、いわゆる〃翻訳〃ではなかった。書こうとすることは同じだが、独自に〃小説性〃を持たせた。
 「なんでこんなに苦労をするのか」と何度か思ったという。苦労をハネ返す原動力は「読んでくれる人たちに、何かを思ってもらえるかもしれない。希望が与えられるかもしれない」という思いだったという。
 後援者の久保田さん(戦後移住者、サンベルナルド・ド・カンポ市在住)とは、五年前に「山里さんは日ポ語のバイリンガルだ」ということを人から聞き知り合った。久保田さんは、ブラジルに「倫理研究所」の精神・教えを広げたいと、最初に導入した人である。新聞連載が終わった『七人の出稼ぎ』が、単行本になる、という記事を読み、日系書店に行ったが、出版されていなかった。その事情を知り、後援者になった。
 『七人の出稼ぎ』の編集人は「日毎叢書企画出版」の野口浩さん、前園博子さん、発行所ニッケイ新聞社、発行人高木ラウルさん、印刷製本はパウロス美術印刷所。
 来る五月五日、文協ビル貴賓室で出版記念会が行われる。市販はその後になる予定。この本の前にニッケイ新聞に連載された『東から来た民』も、移民百周年を記念して単行本化される。
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 ▽山里アウグストさん△二五年サントス市生まれ、日ポ両語を独学で習得。単身、京都の竜谷大学へ自費留学、大学院生のときに僧籍に入る。のち離脱。帰国後、放送、出版の世界に。テレビ番組制作とともに、日ポ語による執筆活動。主な作品に「日本史絵巻物」「心のともしび」「宗教の産業化」「老移民のこの日」「崩壊」「東から来た民」(ニッケイ新聞連載、コロニア文芸賞受賞)、そして「七人の出稼ぎ」。