4月29日(金)
【エスタード・デ・サンパウロ紙二十四日】サンパウロ州海岸地方で行楽地として代表的なグアルジャー市で犯罪が急増し、治安の悪化が改めて浮き彫りにされている。都市の喧噪を逃れて訪れる観光客を狙う犯罪が急増しており、のんびりくつろぐどころか、うかうかできない状態となっている。治安悪化が表面化したきっかけとなったのは、連休を利用して訪れた観光客が二十二日白昼、二人組の強盗に射殺されたことによる。同市では豪華マンションや住宅が並ぶ中、背中合わせに人口の四〇%に相当する約十万人がファベーラ(スラム街)に住んでおり、ほとんどが定職を持っていないことが犯罪につながっているとされ、治安強化に加え、市民生活の向上政策が急務との声が上がっている。
事件が起きたのは、同市の人気スポットで人出も多いピタンゲイラ海岸で、二十二日白昼、サンパウロ州アラサトゥーバ市で薬局を経営している男性が連休を利用して行楽に来て、家族同伴で海岸を散歩していたところ二人組の強盗に襲われた。
二人組は海水浴客を装い、サーフィンボードを抱えていたが、その下にピストルを隠し持っていた。二人組は被害者が首にかけていた金製のネックレスを奪おうとしたが、抵抗されたため胸部にピストルを発射し、ネックレスを引きちぎって逃走した。被害者は病院に搬送される途中で死亡。警察は緊急手配で十九歳の容疑者を逮捕し、所有していたネックレスと武器を押収した。この男は強盗殺人の刑が確定すると禁固三十年となる。
これまでにも二〇〇三年九月に、チリ人の観光客が路上で十五歳の少年に襲われ、射殺されている。また今年二月には市内繁華街で五十三歳の男性が、自家用車を奪おうとした強盗犯に撃たれて死亡している。
海岸の住民によると、引ったくりや強盗は日常茶飯事のことで、住民のことごとくが一度は被害にあったり、犯罪を目の当たりにしているという。とくに海水浴客で被害が多いのは携帯電話で、これを専門に狙うファベーラの少年の仕業だと犯人らは証言している。
いっぽうで保安当局は警備に手落ちはないとした上で、昨年の殺人事件は六十六件で、一昨年の百三十人と比べ半減していると強調している。盗みも昨年は六千八十六件で、一昨年の六千七百九十一件より減少したとしている。しかし関係者によると、煩わしい手続きがあるため、被害届を出さない被害者が多く、実態にそぐわない数字だと指摘している。
銀行を定年退職した六十四歳の女性は、長年住んだサンパウロ市カンポ・ベーロ区の高級住宅を売って五年前に同市に引っ越した。アメリカのマイアミビーチで過ごす高齢者を真似て「サンパウロ州のパラダイス」と思って来たが、実態は異なったと話す。
悪人がうようよしているサンパウロ市では一度も被害にあわなかったのに、ここに来て二回も強盗にあった。三十歳の娘は引ったくりで暴行を受け、転倒して顔に傷を負った。最初は警察に届けたが、二度目は何の解決にもならぬので泣き寝入りした。この女性は外出の折、悪人の注意を引かぬよう、みすぼらしい服装を心掛けている。他人が見たら「高級住宅の召使い」と思うだろうと苦笑いしている。
また、海岸に出向く際には高価なテニスシューズなどの履物を使用しない、携帯電話は持たない、現金はポケットにアイスクリーム代とビール代のみを持っていくことを教訓として挙げている。
いっぽうで、この市ならではの新商売が誕生している。犬のリース業だ。建築現場では夜間にセメントなどの建材の盗難がひんぱんなため、ピットブルやロットヴァイラーなどのどう猛な犬を現場で放して番をさせるもの。一カ月三百五十レアルから五百レアルでリースしている。多い所は十五頭を抱え、作業が終わった時点で放し、翌朝回収している。
犯罪を防止するには市民の生活環境の改善が急務だと指摘する声が多い。海岸線の高級住宅と対象的に、山あいには五十カ所のファベーラが並び、十万人が居住している。上下水道、電気もない。住民は定職がなく、子供らは観光客に金品をねだり、引ったくるのが日課となっている。関係者らは市の予算で職業訓練所や教育振興、住居の提供を施さないと、せっかくの観光地もさびれていくと警告している。