4月29日(金)
春の全国選抜高校野球で、初出場の羽黒高校(山形県)が準決勝まで進んだ。躍進の原動力となったのは、片山マウリシオ、中島ユン、吉田勉選手の日系ブラジル人トリオだった。同校の招きで甲子園まで応援に駆けつけた、国井精さん(山形県人会副会長、68)がこのほど、帰国。初勝利を収めたときの感激や夏に向けた思いなどを語った。
一回戦、対八幡商戦(三月二十七日)。延長十二回裏、二死三塁、バッターボックスに四番吉田選手が立った。三塁走者は、内野安打と送りバンドなどで進塁した中島選手。
エースの片山投手は、四回表に先取点を取られた。その裏、すぐに味方が追いつき、ここまで1─1のままで激闘が続いていた。片山投手は、その後粘り強い投球で決定打を許さなかった。
「あと一本が出て欲しい」。一塁側アルプス席は、主砲のバットに願いを込めた。
相手投手の二球目が、ホーム手前で大きくバウンド。捕手が後逸して、中島選手がサヨナラのホームを踏んだ。その瞬間、アルプス席が総立ちになった。
「その感激を何と言ってよいか。何も考えられなかった。周囲の人と、手を握り合って喜びを分かち合いました」。
試合後一カ月経った今も勝利の瞬間の思いが込み上げてきて、国井さんの両目は涙でいっぱいになる。
実は一昨年の夏の大会で、初めて甲子園の土を踏んだ。惜しくも初戦で惜敗。「甲子園で一勝を」と臨んだ一戦だった。
前日夜、宿舎で激励会が開かれた。三人の母親がブラジルから駆けつけ、ペンダンド型のお守りをそれぞれの息子にプレゼント。それをしっかり身に付けたという。
苦しい試合を乗り切った羽黒ナイン。「一試合、一試合落ち着いて、伸び伸びプレーしているようだった」。その後、勝ち星を重ね、ベスト4まで駒を進めた。
準決勝の対神村学園戦には、斉藤弘知事や加藤紘一衆議もアルプス席に顔を見せた。エラーで三点失ったのが響いて、涙を飲んだ。
試合後、宿舎に慰労に向かった。三人は国井さんに抱きついて泣き、八月にまた、甲子園の土を踏むことを誓った。
国井さんは「最後は残念だったけど、最高の出来だったと思います。残す一年を精一杯がんばってもらいたい」と三人の将来に熱い視線を送っている。