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「知恵の家」で人生開眼=講師は各界の名士=哲学同好会がビジネスに=聴講料は1日100レアル

5月4日(水)

 【エザーメ誌一九〇一号】ツキの呼び方を学ぶブラジル版ツキ学級が開校した。入学者はレストラン経営者や商店主、クラブのマネジャー、美容院経営者、ナイトクラブ経営者など多種多様。サンパウロ市南部の高級住宅地に開校した「知恵の家」がそれ。大学で学んだ知識の応用編で、学科は哲学から文学、歴史、美術と何でもあり。講師は各界の名士。型にはまったことを教える大学とは雰囲気が全く違い、理想の自分像を刻む彫刻家集団だ。
 教科書はウンベルト・エコ著「信じるものと信じないもの」、ニーチェの「ザラストラ論」、ヤロンの「ニーチェは泣いた」、フロイトの「文明の欠点」、セネカの「幸福とは」など。聴講者は「知識の家」をダスルスピと命名した。ブティック・ダスルとサンパウロ大学が合併したという意味らしい。
 開校した年の前期には、五百人が入学した。翌年は二千人。「知恵の家」盛況の秘密は、聴講者らが顧客の文化度に合わせて教養を身に付けさせようということらしい。毎週一回「語らいの夕べ」が開催される。ロシア文学やヘレニズムとクリスチアニズム、シェイクスピアの作品などをテーマに語り合う。
 「知恵の家」が生まれたキッカケは、事業家リベイロ氏の邸宅に人生哲学を語る同好者が集まり、回を重ねる毎に人気を呼んで家に入りきらなくなったこと。発起人七人が、リベイロ氏を中心にこの会合をビジネス化したことに始まる。
 資本金は思ったより少なかったが、すぐに黒字経営に入った。発起人の一人、女優のマリア・F・カンジダさんは、講座で視野が開かれて大局的な物の見方ができ、自然と道が開けるという。新聞記者のルイス・F・ダヴィラ氏は、エリートが互いに刺激し合って、未知の世界を開拓しているのだと述べた。
 「知恵の家」は新陳代謝のため、常に一〇%の空席を作って新人の来場に備えている。聴講席は高級ソファ、休憩時間には舶来のワインが供される。講座の前後にはコーヒーと図書閲覧の時間がある。一日の聴講料は百レアル。
 レベルを保つため、聴講料は安くない。レベルが異なると、聴講者自身が困惑するための配慮。数では女性が圧倒的に多い。女性の方が人生の究極を追求することに積極的といえる。特殊な才能の兆しを早く見せるのも女性に多い。
 人生の目的に悩んで学業も中途半端の中、「知恵の家」で開眼したという人は多い。人生を途中で挫折し、再出発もままならずさまよった果てにたどり着いた人もいる。人生に疲れている人は多いらしい。
 初心者は雰囲気の中に浸ることから始める。ガイドはサンパウロ大学教授、中世の暗黒時代に曙光を点したルネサンスの講義から始まる。希望者は一万レアル(旅費のみ)で、トスカーナ博物館への見学旅行もある。しかし、話すばかりで聞こうとしない貴婦人は、聴講を断っている。